離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
第四章 告白

第四章 告白

 どうやら雨が降るみたいだな。

 終業時刻を過ぎ社員は退勤したあと、社長室で仕事をこなす。じわじわと痛む古傷のおかげで四年前から今に至るまでのことを思い出していた。

* * *

 事故に遭ってすぐ、まだ入院中のことだ。

 病室でずっと琴葉が来るのを待っていた。しかし目が覚めて一度会えただけで、転院先の病院にはついに一度も現れなかった。

 連絡を取ろうにも、スマートフォンは事故で壊れてしまい、そのうえ激しく打撲したり骨折したりした俺は、ベッドで安静を余儀なくされていた。

 母に聞いても、看護師に聞いても誰も琴葉を見かけていないという。いったいどうしたんだと思っていた矢先、北山の弁護士が二通封筒を持ってきた。

 一通は琴葉からの手紙、そしてもう一通は署名がすまされた離婚届だった。

 それを受け取ったときの衝撃を今でもずっと覚えている。

 見舞いに来た母親になかば八つ当たりするかのように頼んだ。

「琴葉に会いたい、会わせてくれと」

 彼女は別れを手紙で済ませるような人間じゃない。それは母だってわかっているはずなのにただ目を伏せて首を振るだけだ。

 その顔がとても苦しそうで、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

「どうして」という言葉しか出てこなかった。手紙に書いてあった理由は、身体が不自由になった俺の世話を一生し続ける覚悟がないというものだった。

 あぁ。そうだな。この足、もう二度と動かないかもしれないんだった。

 医師からの説明に少なからず動揺した。さらにもと通りになる可能性もないと言っていた。しかしそんな不確かな状況で、彼女の未来を俺に縛りつけるわけにはいかない。

 体の不自由な夫の世話を、これから何十年もする未来を、彼女に押し付けたくなかった。

 どうするのが一番彼女のためになるのか、それは彼女の望みをかなえてあげることだ。今の自分にできるのは離婚を受け入れることしかない。

 身の引き裂かれるかのような思いで離婚届けにサインをした。

 夫婦の終わりって案外あっけないものだな。

 北山の弁護士から離婚手続きがすべて完了したのと聞いたのは、サインをしてから一週間ほど経った頃だった。

 自分の気持ちはまだ琴葉にあるのに、今も大切に思っているのに、もう夫婦ではない。それがなんだか不思議でそして寂しかった。
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