離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 普段は物腰が柔らかいのに、こんなときに急に強引になる彼はずるいと思う。何度も決意をして過ごしてきたはずの心が、いとも簡単にぐらついてしまう。

「悪いが、俺は今から出ないといけない。食事のことはまた連絡する」

「私、行きませんよ」

 わたしの拒否の言葉にも玲司は笑みを浮かべていた。

「いつまでも逃げられると思うな」

 その笑みに体がぞくっとしてしまう。あの人に本気で迫られて私はどこまで耐えることができるのだろうか。自信がない。

「では、失礼します」

 いつまでもここにいたら、どんどん追い込まれてしまそうだ。私は逃げ出すかのように社長室を出て、できる限りの早足でフロアを横切った。

 そしてそのままのスピードでロッカールームに駆け込む。

 出社のピークの時間が過ぎて人がいなくて、ホッとする。そして緊張が解けたのか体の力が抜けて、ベンチにへなへなと座り込んだ。

 なんで今さら、好きだなんて言うの?

 たしかに再会してから、そんな雰囲気を感じてはいた。けれどそれと同時に復縁が無理だってこと、彼だってわかってると思っていたのに。

 玲司は四年前、私の手紙を読んで離婚を承諾したはずよ。だからこそ私は今、鳴滝琴葉として生きている。

 ケガも治って、北山玲司としての地位も築いて、彼の人生を歩いていると思っていたのに、なんで今ごろになって私にこだわるんだろう。

 彼はここに社長としてやってきたとき、私がこの会社にいるってわかってやってきた? それで懐かしくなった?

 いや、そんな簡単な感情で、私を振り回すようなことをする人じゃない。あの態度から見て彼が口にした言葉は本気だ。

 考えても答えが出ないのに、疑問ばかりが頭に浮かぶ。

 そもそもなんで結婚していないの?

 四年前、尾崎さんの口ぶりでは、私と離婚して家柄の釣り合った相手とすぐにでも結婚するって話だったはず。

 どの質問も、玲司にすれば包み隠さず教えてくれるだろう。でもそれをしたら最後、私は彼から逃げられなくなってしまう。

 四年前にした約束は破れない。あの日の私の犠牲があったから、今の素晴らしい彼がいるのだから。

 次になにかあったら、踏ん張れる気がしない。私の心はギリギリのところまできていた。

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