離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 ファイルを確認するとその日付は、俺が事故に遭った二日後。まだ北山グループの傘下の病院に移る前のことだ。

 この店主の話が本当だったら、琴葉は体が不自由になった俺を支えるつもりだった? じゃあなぜあんな手紙を俺に書いたんだ。

 ひとりで考え込んでいると、店主が笑顔で俺の足を見ていた。

「失礼ですが、今も車の運転を?」

「はい、時々ですが」

「そうですか、奥様はそのキーケースを真剣に選んでらっしゃいましたよ。ケガを直した夫とまたドライブする。そのときにこのキーケースに鍵をつけてもらいたいって」

 あの時点では、今まで通りに治る見込みは低かったはずだ。それなのに彼女は絶対に治ると思っていてくれたんだな。

「いやぁ、奥様とリハビリ頑張られたんですね。本当によかった。話を聞いていた手前もし郵送でもして、実はまだ歩けないなんてなると、空気を悪くしないかなとか色々考えて、ずっと保管していたんです。でもここも店じまいするので、最後にあなたに大切なものを届けられてよかったです」

 まさか二年半前の琴葉からのメッセージを、今頃になって受け取るなんて皮肉なものだと思う。

「本当に俺にとって、彼女の気持ちが詰まった大切なものです。わざわざ届けていただいてありがとうございました」

「いいえ、奥様にもよろしくお伝えください」

 店主は丁寧に玄関まで見送ってくれた。

 心の中で「そうできるなら、そうしてるさ」と返事をした。

 そのあと俺は、過去の真実を知るために当時のことを知っているであろう母親のもとを訪ねた。

 突然の訪問に驚き喜んでいたが、「琴葉のことで話がある」と言うと一変して顔を曇らせた。

 その表情から、なにか隠し事をしているのだとピンときたが、すぐにそこで問いただすわけにもいかず、昔から変わり映えのないリビングで母と向き合う。

「実は昨日、琴葉から荷物が届いたんだ」

「琴葉さんから?」

 母が驚くのも無理もない。

 琴葉は離婚が成立してすぐにマンションの処分を母に頼んでそのまま姿をくらませたのだ。それ以降俺にも母にも連絡は一度もなかった。

「正しくは二年半前の琴葉から届いた」

 母にもわかりやすく、このキーケースを手に入れた経緯を説明する。
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