離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「相手がどうとかじゃないの。私が忘れられないから、どうしようもないの」

 そうどうしようもないのだ。どんなに努力したところで彼以外の人間に同じような感情を抱けるとは思えなかった。

「君塚だからダメなんじゃない。彼じゃないからダメなの」

 ひどい言い方だと思う。けれどはっきりと口にしなければ、私の決心は伝わらない。

「琴葉」

 君塚が私の右手をつかんだ。ハッとして彼の顔を見る。

 すぐに離れようとする。けれど彼は余計に距離を詰めてきた。

「そんなあからさまに避けられたら、俺かて傷つくやん」

 いつもの軽口を言っている雰囲気ではない。

 ――怖い。

 私はこのときはじめて君塚を男として認識したのだと気がついた。

「なぁ、俺じゃダメなん? 俺ならお前のこと理解してやれる」

 じりじりと距離を詰められて、壁際まで追い詰められた。彼が壁に手をつくと、私の逃げ場がなくなってしまう。

 嫌だ。玲司だと恥ずかしさやときめきがあるのに、君塚にはそれを感じない。

 私にとって恋愛感情をいだくのは、玲司だけなのだ。

「君塚悪ふざけはやめて」

「この態度でふざけてると思うなら、琴葉お前そうとうおめでたいな」

 ふざけてると言えば、いつもみたいに笑って「冗談や」と言ってくれると思ったが当てが外れてしまう。

 どうやら彼を怒らせてしまったようだ。

 どうしたらいつもの君塚に戻ってくれるの。自分にとって大切な同期だから、これからも今まで通りに付き合いたいと思ったのは、虫がよすぎるの?

 自分の考えが甘かったのだと思い知ったところで遅いのかもしれない。どうすることもできない私は、その場でうつむいた。

「会社でそういうことは感心しないな」

 ふたり以外の声が聞こえて、ハッと顔を上げる。

 この声は……。

 気がついたときには、玲司が君塚の肩を掴み私から距離を取らせていた。

「社長」

 君塚が驚いているうちに、私は壁際から抜け出しとっさに玲司のうしろに隠れた。

 それを見た君塚はおもしろくなさそうに、眉根にしわを寄せる。

「場所は悪かったけど、ただくどいてただけです。部外者はだまっていてください」

「それがそういうわけにはいかないんだよ。彼女は俺の大切な人だから」

「社長、なにを言いだすんですか!?」

 慌てて止めに入るが、すでに遅かった。君塚はじっと玲司を睨んでいる。

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