転生姫は国の外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜【WEB版】

 その日の夜、夕飯のあと別荘の二階から外を眺める。
 思わず「わあ……」と声が漏れた。
 満天の星空とまんまるな月が湖に映し出されて、圧巻だ。
 
「これを見せたかったんだ。ラフィーフに、もう聞いていたらしいが」
「そんな……やはり聞きしに勝ると言いますか、聞いて想像していたものとまったく別物です! 気温差にも驚きましたが、冷めて澄んだ空気だからこそこれほどくっきりと星や月が見えるのでしょうね。本当に美しいです。今まで王宮の客間で見ていた星宙も美しいと思っていましたが、上と下から広がって見えるのがこれほどとは思いませんでしたもの。いつまででも見ていられそうです」
 
 少しだけ落ち込んでいたニグム様が、私の答えに安心したのかふわりと微笑む。
 その柔らかな笑みに硬直する。
 だって初めて会った時はあんなに硬くて、ツンケンしていたのに。
 こんな笑い方もできる人だったのか、と驚いてしまった。
 
「肩に触れてもいいか」
「え、え、あ、ど、どうぞ」
 
 確認ののち、左肩に肩掛けがかけられてそのまま抱き寄せられた。
 フラーシュ王国は砂漠で、日中の差すような陽光がなくなると二十度以上気温が下がってしまう。
 この気温差でサボテンなどの多肉植物以外の草花はほとんど種類がないので、私の花粉症も沈静化している。
 だから、まあ……肌寒いとは思っていた。
 それを察してなのか、いつの間にか大きな肩掛けを持って近づいてきて、私の肩を抱き寄せるついでにかけてくれるなんて……。
 ほ、本当に十六歳なのかな!?
 それとも男の子って、こんなに気を使ってくれるものなのかな!?
 私の前世の男子の記憶が、バグなのか!?
 私、花粉症でいつもマスクして薬飲んでたから花の女子高生時代も男子に「いつもマスクつけてるし、目許腫れぼったい、絶対ブス!」って言われ、廊下でわざとぶつかっていくのが十六歳男子のイメージだったんだけれど!?
 世界と国と教育が違うとここまで男の子って別物になるの!?
 それとも、ニグム様だから?
 もしくは、ニグム様が私のことを好きだと言ってくださっているから?
 
「……っ」
 
 これは、まずいのでは。
 いや、まずくはないんだけれど。
 なにがまずいということもないのだけれど、なにかがまずいといいますか。
 顔が、自分でも意味わからないくらい、熱くなってしまって、どうしていいのかさっぱりわからないと言いますか。
 気持ちがさっぱり、追いついていない。
 国益を優先して婚約を了承した。
 
「ちゃんと君の国のご両親に婚約の了承をもらうまでなにかするつもりはないし、君の確認をちゃんと取って関係を進めていくつもりだからそんなに緊張しないでほしい」
「へ、フっ……」
 
 緊張しすぎて変な声出た。
 なんか微妙に裏返っている。
 ビクッと肩が跳ねたけれど、それについてはなにも言われない。
 
「……でも、意識してもらえてうれしい」
「~~~~~!」
 
 顔がまともに見れないのに、耳元でそんなふうに囁かれたら逃げ出したくなる。
 思わず見上げてしまったのが運の尽き。
 嬉しそうなニグム様の顔が、未だかつてないほどに近い。
 
「これからもっと、意識させるから。覚悟しておいてほしい」
「ひ……ァ…………お、お手柔らかに、お願いいたします……」
 
 
 
 ◇◆◇◆◇
 
 
 翌日、昼。
 中央部流行りのカジュアルワンピースドレスで王宮の王族専用の宴会場にニグム様とともにやってきた。
 私ではなく、たとえばユーフィアだったなら平気で「まあ、この国では客人にまで公的な場で床に座って食事を強要いたしますの?」くらい言いそうなものだけれど、私にそんな度胸はありません。
 この国の歓迎方法なのだと、文化の違いなのだからと、そういう解釈で飲み込む。
 が――
 
「お時間を作っていただきありがとうございます、父上、叔父上、お祖父様」
「うむ」
 
 ニグム様とニグム様の肩にいるフラーシュ様の眼差しが絶対零度~~~!
 ニグム様はかろうじて痛くも感じないだろうけれど、国の守護獣様にこんな目で見下ろされていると知ったら土下座で本気陳謝ものなのだが。
 知らないって幸せ、と思うべきなのか知らないって怖い……って思うべきなのか。
 
「昨日正式に俺の婚約に了承をいただいたので、ご紹介いたします。こちらが花真(かしん)王国の第一王女、フィエラシーラ・花真(かしん)姫です」
「初めまして、フラーシュ国王陛下とその親族に皆様。ご紹介に預かりました、花真(かしん)王国の第一王女、フィエラシーラ・花真(かしん)と申します」
 
 中央部の王族に対する挨拶、カーテシーを深く行う。
 それに対して席側が少しざわついたのを感じる。
 揃っているニグム様の親族は男性のみ。
 後ろに控える女性たちは露出の多い服装で、壺を抱えて待機しているからめかし込んだ侍女で彼らの妻ではないのだろう。
 こんなところでも男の権威を誇示してくるなんて、ちょっとカッコ悪いと思ってしまうのは私が中央部の出身だからだ。
 
花真(かしん)王国の第一王女? 知らんな」
 
 なんて思っていたら、国王陛下自らぶっ込んできた。
 覚悟はしていたけれど、出会ってかけられた第一声がこれは……。
 
「――すまない、フィエラシーラ姫。土地ばかり肥え太って、それを治める者にその意識が欠けているのだ。他国の姫を迎えるのに他国の文化もろくに学んでいない。今回の会食は我が国の文化を楽しむと思って、床で我慢してもらえないだろうか?」
「あ……は、はい……」
 
 こうなるような気はしていたけれど、想像以上に自分の父親の態度が悪くてブチギレておられるー!
 
「ニグム、なんだその口の利き方は!」
「仮にも王太子が客人とはいえ女を立てるような言い方を……」
「これでは第三王子ムーダを王太子に、という声が上がるのも無理はないな」
 
 なんで地雷原でタップダンスするようなことを平然とおっしゃっているのですか、この人たちは。
 破滅願望がおありなのだろうか?
 フラーシュ様の歯茎が見えておりますが!?

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