その笑顔を守るために
翌日、茜は小児科の回診で看護師長の佐竹と真理子の病室に来ていた。

「おはようございます!大学病院から来ている松本です。真理子ちゃん…具合はどう?あら?貴方は?お友達?」

「あっはい、村上美香です!」

「美香ちゃんね。後で行くからお部屋に戻ってて。」

「えっ?でも…真理ちゃん具合がいい時は一緒にお話ししてていいって…瑠唯先生が…」

「瑠唯先生?ああ…原田先生。駄目よ。真理子ちゃんは治療の副作用で感染症にかかりやすいの。だからあんまり他の人と接触してはいけないのよ。だから貴方はお部屋に戻っててね。」

一見優しそうではあるが、強引な物言いだ。

「松本先生…真理子ちゃんは今日はお熱も高くなくて…そうゆう時は、少し動いたりお話ししたりした方が夜も良く眠れるだろうからと、加藤部長もそうおっしゃってますので…」

「加藤先生が?じゃあしょうがないわね!」

師長の言葉に、不満を露わにした茜はプイと横を向いて、それから真理子に向かって

「真理子ちゃん、原田先生じゃあたいした治療もしてくれないだろうから、何処か痛かったり、辛かったりしたら何時でも私に言ってね。じゃあまたね!」

そう言ってあっさり部屋を出ていった。

「何か感じ悪い先生だったねー」

「ほんっと!瑠唯先生の事、たいしたことしてくれないなんて言って!そんな事ないのに!」

「そーだよねー瑠唯先生は何時だって一生懸命私達のこと応援して、治療してくれてるのにねー」

「私、あの先生大っきらい!」

「私もー」

真理子と美香は廊下に向かって「べー」と舌を出した。


その日の昼食時…ナースコールが入る。真理子の部屋からだ。

「真理子ちゃん!どうかした?」

師長の佐竹が対応するが返事がない。直ぐ様真理子の部屋へ駆けつける。

「真理子ちゃん!真理子ちゃん!何処か痛い?」

すると掠れる声で

「く、苦しい…息が…出来…ない…」

今日の病棟担当は茜だ。直ぐに佐竹が連絡を取る。

「松本先生!真理子ちゃんが苦しいと言っています。お願いします。」

『意識は?』

「意識はありますが…」

『ならもうちょっとでお昼食べ終わるので…終わったら直ぐ行きます。』

「は?あの…」

ブチっと切れた。
佐竹は仕方なくERにいる瑠唯に連絡を入れる。

『はい!外科、原田!』

「原田先生!佐竹です。あの…真理子ちゃんが苦しいと言っているんですが…」

『直ぐ行きます!』

数分後、瑠唯が真理子の元に駆けつけた。

「真理ちゃん!どーした?何処が苦しいの?」

「瑠唯…先生…息が…息が出来ない…」

「師長!酸素用意して!」

「真理ちゃん!直ぐ楽になるからね!ちょっと我慢して!」

酸素マスクをかけると真理子は少しづつ落ち着きを取り戻していった。そこへ歯磨きを終え、化粧を直した茜がやって来る。

「原田先生…貴方何やってんの?今日はERの担当じゃあないの?」

「ERの方は上原室長にお願いして来ました。」

「だったらもう私が来たんだから、さっさと戻りなさいよ!自分の仕事ほったらかしてこんなとこ来てないで!」

その言い草に佐竹がキレる。

「こんなとこって…松本先生が直ぐいらしてくださらないから、原田先生が…」

「何よ!少しくらい遅れたって、問題なかったじゃない!」

「松本先生!師長!ここは病室です!」

瑠唯に一喝されて二人は黙り込んだ。すると真理子が薄っすら目を開けて

「瑠唯先生…」

「ん?真理ちゃん…少し楽になった?」

「うん…だいぶ楽になった…瑠唯先生…」

「何?」

「飴…何時もの飴…持ってる?」

「持ってるよ。食べる?はい…」
と、瑠唯は飴を包みから取り出してマスクをずらし、口に入れた。

「ちょっと!原田さん!そんなもの食べさせていいわけない…」

そういいかけた茜を佐竹が堪らず病室から引っ張り出した。

静かになった病室で瑠唯と真理子は顔を見つめ合い

「叱られちゃったね。」

「叱られちゃった。」

フフフと二人で笑い合った。





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