その笑顔を守るために
「寒い?温度上げようか?」

夏の終わりに暖房を入れて走る車の中で

「いえ…大丈夫です。それより先生は暑くないですか?」

「僕はいい…それより君が風邪ひいたら大変だ。何だか顔色が悪いし。」

「何か色々あって…考え事しながら走ってたら、こんなとこまで来ちゃって…此処どこだろう?って思ってたら雨まで降ってきちゃって…本当に助かりました。」

「いいんだ…勝手に心配して迎えに来たんだから…真理子ちゃん…残念だったね…でも、色々って他にも何かあった?」

「えっ…あっ…えっと…」

「何?言いにくいこと?」

「あ…いえ…ちょっと、難しいオペの依頼を受けまして…」

「オペの依頼?君に直接?何のオペ?」

「えっ…あっ…はい…脳の…」

「脳…って、腫瘍かなんか?」

「はい…」

「それにしても君に直接依頼って…院長も通さず…誰?」

そこで瑠唯が沈黙する。

「…そっか…守秘義務とかあるもんな。ごめん…」

「いえ…別に、いずれカンファレンスとかになると思うんですが…ちょっと迷ってて…と言うか…自身…なくて…」

「君が?そんなに難しいオペなの?」

「はい…病巣のある場所が悪くて…それに、後遺症を全くなしにとのご希望で…」

「そりゃ誰だって後遺症なんかない方がいいに決まってる。でも、脳の難しい位置の腫瘍なんだろう?多少の後遺症は覚悟しないと…命の方が大事だろう?」

「はい…ですが…」

「…で…どうするつもりなの?」

「わかりません…まだ…わかりません。」



程なく到着したそこは高台に建つ低層階の高級マンションだった。

「先生…此処に、住んでらっしゃるんですか?」

「ああ…此処だと、大学病院と髙山病院と実家の病院の真ん中辺なんだ。何処に出勤するのも便利なんだよ。」


「どうぞ…上がって」

通されたその部屋は如何にも山川らしい、インテリアで統一されていた。置かれている物も必要最小限でスッキリと片付けられている。

「もう風呂も溜まっているはずだから、直ぐ入って。」

瑠唯が不思議そうな顔をしていると、山川はフッと微笑み

「ああ…さっきコンビニからスマホで沸かしておいたんだ。」

「そんな事出来るんですねー!
私…一年間文明から遠ざかった生活してましたから、びっくりです。」

「うん…大変だったね…とにかく早くあったまって…」



「お風呂…ありがとうございました。バスタブ大きくて、気持ちよかったです。…それから…これも…」

そう言って着ていたTシャツを引っ張る。

「ああ…ブカブカだ…」

山川の微笑みが優しい。

「濡れたもの、洗濯機回せば乾燥まで終わるよ。」

「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらいます。それで…乾いたら、タクシー呼んで失礼しますから…」

「ええーこんな田舎でこんな時間にタクシーなんて来ないよー」

「えっ………」

「…まぁ、とにかくカフェオレ作ったからこっちに来てあったまって。」

そう言うとリビングから出て行ってしまった。

程なくドライヤーをもって戻ってくる。

「髪が未だ濡れてる…こっち来て…」

山川はソファの端に腰掛けると足元に瑠唯を促す。
瑠唯がおずおずとそこに座ると、ドライヤーで彼女の髪を乾かし始めた。

「細くて綺麗な髪だね…」

髪を梳く優しい手とドライヤーの温かい風邪が心地よかった。





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