その笑顔を守るために
談話室の片隅に一人ポツンと椅子に腰掛けている美香を見つけて、瑠唯が立ち止まる。

「美香ちゃん…」

「あっ…瑠唯先生!」

「どうしたの?こんなとこで…もう夕飯食べたの?」

「うん…食べ終わった…」

「じゃあ何してたの?」

「…今日、リハビリ頑張りすぎて…ちょっと休憩中…」

「そっか…」

隣に瑠唯が腰掛けた。
すると、フっと美香が下を向く。

「真理ちゃん…死んじゃった…」

「うん…」

「あんなに頑張ってたのに…病気には勝てなかったんだね…」

「うん…悔しいね…」

「真理ちゃんから、お手紙もらったの…先生ももらったんでしょ?」

「うん…ありがとう…って書いてあった…助けてあげられなかったのに…ありがとう…って…」

「私のお手紙にも…仲良くしてくれてありがとうって。それから…私が死んでも悲しまないでって…真理ちゃんは先生や私のおかげで最後にとっても楽しい時間が過ごせたからって…お父さんやお母さん、おばあちゃん達に優しくしてもらって幸せな人生だったて…そう書いてあった…」

「そうなんだ…」

「だからね、私…もう泣かない!真理ちゃんの分まで頑張って生きる事にしたの。真理ちゃんは未だたったの十三歳でまだまだこれから沢山楽しいことがあったはずなのに…高校行って、彼氏とか出来て、大学も行って、就職して、結婚して、お母さんになって…でも病気のせいで全部出来なくなっちゃって…だから私…真理ちゃんが出来なかったそうゆう事、全部やるの!もう自分で死のうなんて絶対思わない!真理ちゃんの病気に比べたら、学校にいるやな奴なんてたいしたことないもん!絶対負けない!それでね、今までいっぱい心配かけたお父さんに親孝行して…それから将来、やりたい事見つけたの。」

「やりたい事?」

「うん!私、瑠唯先生みたいに頭良くないし勉強もあんまり得意じゃないから、お医者さんは無理だと思うんだけど…お話し聞いてあげたいの!真理ちゃんみたいに病気で苦しんでる人とか私みたいにいじめにあってる子の相談相手になりたいの!そうゆうお仕事もあるんだよねぇ?」

「うん…カウンセラーかなぁ…でも、頑張ればお医者さんにだってなれるよ、きっと。」

「ううん…病気を治すのは瑠唯先生にお任せして、私は困ってる人や苦しんでる人、悲しんでる人の気持ちを少しでも楽にしてあげられるような…そうゆう人になりたい!」

「そっか…なれるよ!美香ちゃんなら、絶対なれる。…じゃあ…私は美香ちゃんに任されちゃったから、頑張って病気…治さなきゃ」

「そういえば…来週、大野先生の手術なんでしょ?」

「ん…あっ…よく知ってるね。」

「あの先生…声が大きくて有名だから…他の患者さんが話してるの聞いちゃったの。でも…大野先生ってすっごく優しいよね!」

「うん…すっごく優しい…私にとっては、お兄ちゃんみたいな人…」

「じゃあ先生、絶対手術成功させて大野先生の病気治さなきゃ!」

「そうなんだけど…」

「難しい手術なの?」

「うん…結構…それに私なんかよりもっと凄い先生沢山いるのに、なんで私なんだろうって…思って…」

「だって、大野先生が瑠唯先生に手術してって言ってるんでしょ?」

「うん…」

「それ、なんかわかるかも…」

「えっ?何が?」

「だって…どんなに凄い先生より瑠唯先生の方がいいもん!私だってどっかの大学病院の偉そうな先生より、瑠唯先生みたいにいっつも一生懸命患者さんの治療してくれてる先生に手術して欲しいと思うもん!絶対!」

「…っ…ありがとう…美香ちゃん…」

瑠唯は自分の中に何かがポッと灯った気がした。




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