その笑顔を守るために
瑠唯がERに駆け込むと…

「おお…どうした。血相変えて。」

大野がベットに腰掛けて、呑気な顔をしていた。

「どうした…じゃありません!倒れたって…」

「大袈裟だなぁーちょっと目眩がしただけだ。」

「大袈裟なんかじゃないでしょう?医者がERでぶっ倒れたらシャレになりませんよ…」

孝太が抗議した。

「とにかく、診察させて下さい!場合によってはこのまま入院してもらいますから!」



『これ…着替えとか…必要な物持ってきたから、足りないものあったら言って。』

『ああ…悪いな。鍵はそのまま持っててくれるか?』

『それは構わないけど…どうなの…具合…』

瑠唯の必死の説得で、大野は結局その日から入院する事となり…落ち着いた頃を見計らって瑠唯が病室を訪ねると、中から話し声が聴こえる。

…この声って…佐々木先生?…

『まあ…それなりだ。』

『それなりって、なによ…』

『なあ…しおり…俺は、脳腫瘍のオペなんて数え切れないほどやってきた。でも…オペされるのは初めてなんだよなぁー』

『あたりまえじゃない…何馬鹿な事言ってんのよ!』

『わかってなかったなぁーと思ってさ…』

『何を…?』

『患者の心境…』

『どんな…?』

『やっぱ、こえーよなぁ。』

『そうね…でも…原田先生、腕は確かでしょ?』

『ああ…だが、絶対は無い。それに…命は助かっても、問題はその後だ。俺はもうオペが出来なくなるかも知れないんだぜ…』

『ふふ…何時も強気な大野淳平が、随分と弱気な事言うのね。』

『ああ…だからわかってなかったんだって…』

『安心して…メスが握れなくなっても、貴方一人くらい私が養ってあげるわよ。こう見えて、結構優秀な産婦人科医なんですからね。』

瑠唯は声をかけることが出来ずにその場を離れた。



「大野先生、失礼します。…あれ…邪魔しちゃいました?」

ひょっこり顔を出したのは山川だった。

「はかやろう!そんなんじゃねえよ!」

その横でしおりがはにかみ下を向く。

「倒れたって聞いたんで、様子を見に来たのですが…大丈夫そうですね。」

「あたりまえだ…大袈裟なんだよ!原田も長谷川も…」

「でも、主治医の言う事は聞かなくちゃ…今、来てました?原田先生…後ろ姿、見かけたんですが…」

それを聞いた大野としおりは、顔を見合わせ

「聞かれたか?…今の話し…」

「何です?今の話しって…」

「何でもねぇよ!…それより山川先生…俺が三年かけて駄目だったのに…どうやって原田を変えたんだ?」

「私…また後で来ますね。」

何かを察して病室を出ようとするしおりを大野が制する。

「いや、いい…お前は此処にいろ。で…先生、まさか手ぇ出したりしてねぇだろうなぁ?」

「それは…過去の誤解をときました。ただ…それだけです。」

そう答えるしかなかった山川を大野が怪訝な顔で見つめる。

「そうか…まぁ俺はいいがな、院長は手強いぞ!」

「覚悟はしてます。」

「それと…俺のオペが終わるまでは、お預けだ!」とニヤリと笑う大野と…

「…わかりました。」と渋い顔をする山川を…

しおりがキョトンとした顔で見比べた。






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