青春のたまり場 路地裏ワンウェイボーイ
 台所が落ち着くと古いテーブルに二人向き合って座る。 結婚当初はどっか気恥ずかしくて向き合えなかったのに、、、。
お茶を飲みながら二人でテレビを見ている。 今日は土曜日。
[8時だよ 全員集合!]だ。 こいつらのコントは死ぬほどに面白い。
学校コントなんて最高だねえ。 志村けんが一番かもなあ。
これだけのコントをどうやって捻り出すんだろう? 裏を見てみたいよ。
しーらけどーりー とーんでいーくーーー、、、、、、、、、。 あれは違うか。

 あんまりにおかしいものだから時には芳江までお茶を噴き出す始末、、、。 「こらこら、何処向いて噴いてんだよ?」
「ごめんごめん。 あなたの顔を見てたらおかしくて、、、。」 「何か付いてるか?」
「うーんとねえ、目と鼻と口。」 「それは誰だって付いてるだろうがよ。」
「モグラに目は無いわよ。」 「俺は人間だ。」
「あーら、ごめんなさい。 モグラかと思ったわ。」 「何でだよ、、、、。」
「いつもモソモソしてるから。」 「お前じゃあるまいに。」
「ワーー、また虐めるのね? 寝てあげないわよ。」 「それこそ虐めだよ。」
「私、虐めてなんかないもん。 虐めじゃないもん。」 「やっぱりお嬢様だなあ、お前は。」
俺は芳江の後ろに回って頭をなでなでしてみる。 「分かったわよ。 気持ち悪いなあ。」
「我が家のご主人様に向かって気持ち悪いだなんて、、、。 トホホ。」 「分かったわよ。 謝るから機嫌直して。」
「ワーイ。 勝ったぞ。」 「おっぱいはお預けね。」
「ガク、、、。」 まったくもい、どうしようもない夫婦なのであります。

 その夜、俺が一人で布団に潜り込んでいると、、、。 そーーーーっと芳江が入ってきた。
「寝てる寝てる。 入ってやろうっと。」 「起きてますけど、まだ。」
「えーーーーーーーー、狸に騙されたあ。」 「狐が狸に騙されたって聞いたこと無いんだけど。」
「誰が狐よ?」 「お前だよ お、ま、え。」
「もう。 寝る時まで虐めないでよ。」 「お互い様だろうが。」
ってなわけで、今夜も俺たちは相変わらずの夫婦の営みに励むのでありました。

 次の朝、、、。 「おーい、一郎は居るか?」
「居ねえよ。 タコ。」 「居るじゃねえか。」
「何か用か?」 「哲夫が捕まった。」
「何だって?」 「哲夫が捕まったんだよ。 朝っぱらから。」
「何かやらかしたのか?」 俺が和彦と話していると芳江がのこのことやってきた。
「あーら、和彦さん。 今朝はまた早いわねえ。」 「哲夫が捕まったんだ。」
「まあまあ、何で?」 「近所の子供にケガをさせたんだってさ。」
「何でまた?」 「あいつさあ、木工所で働いてるじゃん。 それをバカにされたものだから蹴飛ばしたんだって。」
「蹴り飛ばすくらいで捕まるようなケガをするか?」 「何でも、、、近所のおばちゃんが通報したんだそうだよ。」
「ったく余計なことを、、、。」 「だよなあ。 当事者に任せておけばいいのに。」
「まあな、哲夫も哲夫だからなあ。 前さあ、車のガラスを叩き割って警察呼ばれただろう? 前科が有るからなあ。」 「んでどうするよ?」
「俺は何もしねえよ。」 「何もって、、、。 一応は友達じゃ、、、。」
「あんなのが友達って呼べるか。 バカ。」 「ひでえなあ。 何もしねえのか?」
「あいつだってガキじゃねえんだから自分の尻くらい自分で拭かせろっての。」 和彦は不満な顔で帰って行った。
「朝っぱらからうるせえなあ。 こっちは仕事の準備が有るんだから考えてほしいわな。」 「え? フリーなレジ打ちに準備なんか要るの?」
「うっせえなあ。 これでも一応は店員なんだぞ。 顔も洗って歯も磨いてだなあ、、、。」 「それくらいは誰だってやるわよ。」
芳江は味噌汁を飲んでしまうと身支度を始めた。 「今日も遅いからよろしくね。 ダーリン。」
「へ! 分かったよ ポンコツママ。」 「誰がポンコツよ!」
「行っちゃった。」 ドアを勢い良く閉めて出て行った芳江を見送ってから俺はご飯を食べるんだ。
朝のバイトが終わる9時までに店に入ればいい。 のんびりとお茶を飲んでいるとまた誰かが、、、。
「おはよう! 一郎君。」 「今度は何の用だ?」
「哲夫のことで、、、。」 「それならさっき聞いたよ。」
「いやいや、工場の親父さんが病院代を払ったんだそうだ。」 「何だって?」
「親父さんが哲夫の代わりに金を払ったんだとよ。」 「ったく、、、どいつもこいつも余計なことばかりしやがるぜ。」
「だからさあ、とりあえず警察からは帰されたんだって。」 「へえ。 それでどうすんの?」
「そこでだ。 仲間内で集まって励ます会を、、、。」 「アホか。 警察沙汰をやらかしたやつに励ますも何も無いだろう。」
「そこをさ、、、。」 「俺は絡まねえから勝手にやってくれ。」
どいつもこいつもなってねえなあ。 哲夫はこの町一番の悪ガキだぞ。
今だって大人になれない悪ガキだぞ。 そんなんを励ませってか?
俺が剥げますわ。 冷えたお茶を飲みながら時計を見る。
「行くかな。」 颯爽と外へ出る。
暇そうなじいさんたちが散歩している。 「倒れないでくれよ。 大変なんだからな。」
ブツブツ言いながらセブンのドアを開ける。 「おっはよう!」
声だけはでっかくてバイトのやつも慌てて振り返るんだ。 「あ、あ、あ、あ、高柳さん。 おはようございます。」
「湿っぽい顔してるなあ。 商売は笑顔が大事なんだぞ。」 一応、分かったような顔をして仕事を引き継ぐんだ。
この店は5時から開いててね、朝番のバイト君が働いてる。 俺は9時からだ。
午前中はほぼ暇なんだよ。 昼飯時がやたらめったら忙しい。
何処から湧いてくるのか分からないが、兎にも角にも弁当がよく売れる。
お巡りさんも買いに来るからねえ。 たまにはふざけて警棒を出してくるやつも居るけど、、、。
「兄ちゃん、焼き肉の美味い弁当は有るか?」 「その辺に転がってるよ。」
「何? 弁当を転がすのか?」 「あのさあ、忙しいんだからいちいち絡まないでよ。」
ぶすくれたおっさんは陳列台から焼肉弁当を持ってきた。 「有ったじゃん。 良かったねえ。」
冷かしながらレジを打つ。 おっさんは少し酔っぱらってるようだ。
「朝から飲むなっての。 バーカ。」 アッカンベエをしておっさんを見送ってやる。
「詰まらんなあ。 あれで議員だってよ。 笑っちまうぜ まったく。」 世も末か?
 ここ、宮前町のこの辺りには昔からの日雇い宿が有る。 そこのおっさんたちは身元不明なホームレスばかり。
その宿の主人は「慈善事業だ。」なんて言ってたけれど、土曜日の夜は物騒で安心して散歩も出来やしないって聞いたことが有る。 差別するわけではないが、身元くらいきちんと調べてくれよな。
何課起きてからじゃ遅いんだぜ。 ただでさえ酔っ払いが多いんだからさ。
 ついこの間もどっかの奥さんが絡まれて殺されそうになったって言うじゃないか。 本当に危なっかしい世の中だぜ。
自然公園を歩いていたって誘拐されるご時世だ。 考えてもらいたいもんだぜ。
 昼を過ぎると客が減ってしまって暇になる。 そしたらレジに金を入れて弁当をごちそうになる。
ついでに缶コーヒーもごちそうになって、腹がいっぱいになったら次の客を待つんだ。
「ん? 事件でも起きたのか?」 パトカーのサイレンが聞こえる。
「ごめん、トイレ借りるよ。」 「なんだ、、、トイレか。 脅かすなよ お回り目。」
こんなことはしょっちゅうだ。 忙しいんだろうなって思っていたら、「サイレンを鳴らせば急いで行けるからさあ、、、。」だって。
うちはそんなに急がなくても大丈夫だよ。 トイレはいつでも空いてるから。
 だってさ、セブンのトイレだよ。 そうしょっちゅう、誰かが入ってることも無いんだよ。
たまに酔っ払いが思いっきり吐いていくから大迷惑を被るんだけどなあ。

 さてさて、セブンの仕事も4時前には終わるんだ。 そしたら夜のバイトにレジを任せる。
夜は比較的のんびりしてるって言ってたな。 たまに奥さんが人数分を買いこむことが有るくらいで。
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