冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。


 その人はニタァと笑った。


「素敵な名前ですね」
「はあ……」
「また来ます、紫さん」


 ゾクっと悪寒が走った。
 なんかよくわからないけど、気味が悪い感じだな……。

 お客様にこんなこと言ってはいけないけど、もう来て欲しくないかもしれない……。


「紫、どうした?」

「あ、お兄ちゃん。何でもないよ」


 お兄ちゃんには余計な心配かけたくない。


「そうか?紫、もう上がっていいよ。まかない作っておいたから」

「いつもありがとう、お兄ちゃん」


 モヤっとした気持ちもお兄ちゃんの笑顔一つで癒されてしまう。

 閉店準備をして、今日もふじみやの一日が終わった。こんな感じで私たち家族は頑張っている。

 自宅に帰り、リビングに飾られたお父さんの写真に向かって微笑んだ。


「ただいま、お父さん」


 私たちは大丈夫だから、心配しないでね。


 だけど、私は知らなかった。
 平穏に思えていた日常は、実は崩壊する寸前だったということに――。


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