冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。

最初で最後の一夜

　それは突然訪れた。
　大学から帰宅したら、店の暖簾が出ていなかった。何かあったのだろうかと胸騒ぎがしながら中に入る。


「お兄ちゃん？お母さん？」


　入ってすぐに目が合ったのは、この前のスーツの男性客だった。今日もビシッと身なりを整え、私を見つけるとギョロリとした目を細める。


「やあ紫さん！」
「あ、こんにちは……？」
「この前は名乗りもせずにすみません。僕、三谷須(みやす)霊市(れいいち)といいます」
「は、はあ……」
「……やっぱりかわいいな紫さん」


　目を細めて笑うその人にまたゾクっと悪寒が走った。


「良い返事を待ってますね」


　彼はとても良い笑顔でそう言うと、店を出て行った。一体何のことだろう。
　振り返るとお兄ちゃんもお母さんも神妙な面持ちで座っていた。何か只ならないことがあったのは明らかだ。


「お兄ちゃん……？」

「ごめん紫、大事な話があるんだ」


　額を押さえながら、お兄ちゃんは疲れ切った表情をしていた。私はある程度の覚悟を決め、二人の前に座る。


「何があったの？」

「さっきの方は、三谷須さんと言って金融会社の社長さんなんだ」


　金融会社の社長？あの人が？


「紫にはずっと黙ってたけど、うちには借金があって……」

「えっ！？」

「ごめんね。紫には心配かけたくなくて、ずっと言えなかったんだけど……お父さんはかなりのギャンブル好きだったのよ」


　青い顔をしながらそう言ったお母さんの言葉は、衝撃的だった。