フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

5 フラワーウェディングは大ピンチ⁉

 同じマンションの前で車を降り、同じエレベーターに乗った。
 それだけでも変な感じがするのに、社長は目が合うと、なぜかこちらに優しく微笑んだ。

 同じ階で降りて、それぞれの部屋へ。
 鍵を取り出し部屋に入る前、「ありがとうございました、おやすみなさい」と頭を下げる。

「……美緒の中の熱いものに触れられて、俺は嬉しかった。おやすみ」

 パタン、と隣の部屋のドアが閉まる。

 え――?

 もう社長は隣の部屋に行ってしまったはずなのに、ドクドクと胸が鳴っている。
 無意識に手を胸に当てていたらしい。
 トクントクンと、その動きが手に伝わって、その速さを実感する。

 きっと、ちょっと嬉しかっただけだ。

 *

 それから、二週間が過ぎた。
 社長とは、あれ以来会ってない。
 そもそも、前の社長とも頻繁に会っていたわけではないし、生活時間も違うのだろう。

 私も仕事が式直前で忙しく、慌ただしい日々を送っていた。

 そして今日は、私の担当の結婚式の日だ。
 まだ日の昇らないうちに家を出て、会場であるホテルに到着する。

 会場の飾りつけは生花で、日持ちはしない。
 だから、早朝から作業をして、結婚式に備えるのだ。

 すぐに搬入口に急ぎ、花が運搬されるのを待つ。
 今日の運搬物は、昨日のうちに制作したウェディングブーケとブートニア、参列者椅子と壁に飾るフラワーリースに、フラワーガール用の花びらだ。

 今日の新郎新婦さんは、とてもお花が好きらしい。
 打ち合わせの時から、お花の指定をしてくるほど、お花に精通しているお二人だった。

 まるで、私みたい。

 顧客を比べるべきではないが、どうしても親近感が湧いてしまい、つい準備に力が入った。

「南戸美緒」

 不意にフルネームで名を呼ばれ、ぴくりと肩が震えた。
 この声は――。
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