フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 やがてリースを全て披露宴会場へ運ぶ車に搬入し終わり、なんとか撤収作業を終えた。
 ふう、と息をつき、振り返ると、そこに社長がいた。

「お疲れ」

 社長はそう言って片手をあげる。

「あの、色々とありがとうございました!」

 ぺこりと頭を下げようとすると、手のひらを見せられ阻止された。

「いい。なかなか楽しかったからな」

 社長……。

 庶民の、私の仕事を、楽しいと言ってくれた。
 社長が、私の仕事のやりがいを、楽しさを知ってくれた。
 それだけで胸がいっぱいになる。

 けれど。

「あの日の、詫びになっただろうか」

 社長はそう言って、ふっと息を漏らし笑う。

 はっとした。
 社長がしていたのは、私のこと――私の仕事を、理解するためのものじゃない。

 庶民のことを知り、考えを改め、変わってくれたのだと思った。
 けれどその実、お花を届け共に動いてくれた一連のそれは、私に対する『お詫び』だったのだ。

 当たり前だけれど、これは恋じゃない。

『俺、借りは作らない主義なんだ』

 そう言った社長を思い出す。
 私を食事に誘い、今日も視察だとここにやってきて、私を手伝って――。

 全部、この『お詫び』のためだったんだ。

 そうだよね、人はそう簡単には変わらない。
 そんな人に、一人で勝手にドキドキして、浮かれて……バカみたい。

 この人は『社長』で『御曹司』で、そもそもの考え方が違う人なんだ。

「『お詫び』としては十分すぎるくらいです。ありがとうございました」

 私が言うと、社長はどこからか取り出したチョコレートコスモスの花を一輪差し出す。

「花好きなお前に」

 それを無理やり私に押し付け、社長は踵を返す。

「俺は帰社する。美緒は直帰だったな、気を付けて帰れよ」

 社長はそのまま去っていく。
 私はチョコレートコスモスを抱えたまま、一人ぽつんと取り残されてしまった。
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