フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

7 始まりすらなかった恋

 のろのろと部屋に帰ってきた。
 いつもなら花瓶におこぼれの花を活けるのだが、今日はお花は披露宴会場行き。
 私は社長にもらったチョコレートコスモスを、一輪挿しのように花瓶に活けた。

 なにか意図があるのかもしれないと、花言葉を調べた。

 『恋の思い出』
 『恋の終わり』

 そんな言葉ばかりが検索画面に上がり、ため息をこぼした。

 見れば見るほど、その色も見た目も、女性に贈るにはふさわしくない花だ。
 どうやら私は最初から、女としてみられていなかったらしい。

 チョコレートコスモスを贈られたのも、きっと季節のお花だから。
 赤やピンク、白色のコスモスじゃないのは、私が恋心と勘違いするから。
 きっとそうだ。

 地味な色のコスモスは、テーブルを彩るには地味で。
 私は地味な一般庶民で、彼とは別の世界の人なのだと、思い知らされたような気がした。

 *

 それでも、やっぱり見てしまう。
 大切にしてしまう。
 チョコレートコスモスのお花を水揚げをする度に、壁の向こう側が気になってしまう。

 社長は今どうしているのだろう。
 社長は、何をしているのだろう。

 けれど、同時に思う。
 旧御笠財閥の御曹司で我が社の社長。
 そんな人が、隣に住んでいること自体奇跡のようなことだ。

 そのちょっとした運命の交わりは、神様がちょっとだけ間違えためぐり合わせなのだ、と。

 数日の間に、チョコレートコスモスの花びらは落ちてゆく。
 その落ちていく花びらの数だけ、社長への思いが募ってしまう。
 その度に、寂しくなんかない、そもそも考え方も価値観も何もかも違う人なんだと、自分に言い聞かせた。
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