フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
 どのくらい泣いていただろう。
 キッチンにうずくまり、チョコレートコスモスの茎を握りしめたまま。

 気が付けば、壁の向こうからガタンと物音が聞こえる。
 はっと顔を上げ、壁を見つめた。

 この壁の向こうに、社長がいる。
 それは、変わらない事実だ。

 それに――

 私は涙を袖で拭うと、立ち上がる。

 ――好きだよ。どうしても。幻になんてならない。そばにいたいよ。

 脳裏に浮かぶのは、一緒にお酒を飲んだ時の、社長室で困ったときの顔。
 結婚式の時の、御曹司らしい豪快な解決法と、現場で動く社長の姿。

 気持ちは、この涙に証明されたような気がして。

 自分が寝起きですっぴんのジャージ姿なことも忘れて、私はそのまま家を飛び出した。

 *

 赤色のペチュニアを、花屋さんで買ってきた。
 チョコレートコスモスの花言葉が、『恋の思い出』とか、『恋の終わり』なら。
 私の答えは、これしかない。
 私の好きな花言葉を持つ、情熱の色のお花だから。

『決して諦めない』

 その想いを、込めて。
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