フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

8 走り抜け!

 けれど、いざお見合い場へやってきたら、足が竦んだ。

 いかにも格式高そうな料亭。
 入り口に掲げられた『本日貸切』の文字。

 当たり前だ。
 この中でお見合いをしているのは、あの旧御笠財閥の御曹司。

 一方、寝起きのすっぴんで、しかもジャージ姿の私。
 手に持った花が、唯一の色味だ。

 そんな私が、一人この縁談に突っ込もうとしているなんて――。

 何をしているんだろう。
 バカみたい。

 何を諦めようとしてるの?
 せっかくここまで来たじゃない。

 相反する二つの感情が、胸の中でせめぎ合う。

 目をつぶり、小さく深呼吸する。
 ゆっくり開くと、赤い情熱の花が目に入る。

「小さな幸せを感じていられればそれでいい。だけど、私の幸せは――」

 もう一度、その料亭を見上げた。

 ――私の幸せは、彼の隣にいることだ。

 思い切って、その戸を開ける。

「お客様、本日こちら貸切でして――」

 と出てきた女将さんらしき人は私を見て、ぎょっと目を見開いた。
 けれど私は彼女を振り切り、その奥、人の集まる場所まで走る。

「ちょ、ちょっと、お客様~⁉」

 そんな声を後ろに聞くと、前からスーツを着た男性がこちらにやってくる。

「何者だ、お前は!」

 私はいとも簡単に、その大柄な男性に取り押さえられてしまった。
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