フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!

2 突然の求婚――って、何考えてるの⁉

 プシュッとプルタブを引き、そのまま口を付ける。
 思いっきり上を向き、ごくごくと泡ごと喉に流し込む。

 その光景を、目をまん丸にした彼が、じっと見ていた。

「なんだ、それは」

「缶ビールです。庶民はこうやって、お家でお酒を飲むんです!」

「なるほど……」

 彼はテーブルに並んだ缶のひとつを手に取ると、興味深そうに眺める。

「唐揚げはこうやってかじりついた方が、肉汁も味もじわんと溢れて美味しいですし」

 言いながら唐揚げにかぶりつけば、彼はまた目を見開いた。

「女のする行動とは思えないな」

「これが“庶民の”女です」

「ふーん……」

 鼻で答えるようにそう言った彼は、まだ缶を眺めていた。

「よろしければ、どうぞ? 冷たいうちに」

「じゃ、頂く。ありがとう」

 彼は苦戦しながらプルタブを開け、恐る恐る口をつける。
 そしてそれを口に含み、彼の喉仏が動いてから数秒。

「悪くない」

 と、缶を見つめた。

「でしょ? で、こうやって飲みながら、愚痴るんですよ」

「愚痴?」

「そ。今日の仕事はうまくいかなかったとか、あの人がもっと動いてくれればー、とか。自分じゃどうにもできないような愚痴を、お酒と共に喉の奥に流し込むんです」

「憂さ晴らしというわけか」

「まあ、そんなところですね」

「じゃあ、お前もすればいい」

「え?」

「今、お前の憂さ晴らし、俺が聞いてやる。庶民はどんな風に考え、どんな風に仕事をしているのか――興味がある」

 なるほど、と思いつつ、でも憧れの仕事に就いている今そんなに不満もない。
 強いて言うならば。

「雑用を押し付けてくる先輩がいるんですよね。私の仕事は、まあ依頼がなければ基本暇なので、そういうのも請け負ってたりするんですけど……でも、自分たちでできるのをしないのは違うんじゃないかなって」

「まあ、そうだな。仕事というのは、適材適所。割り振った方にも、意図があるはずだ。他者に押し付けるのはよくない」

「分かってくれるんですか⁉」

 正直、相容れないと思っていた。
 こんなにセレブな人だ。
 一庶民の愚痴なんて、バカにするのだろうと思っていたから。

 嬉しくなって大きな声が出て、急に恥ずかしくなり残りのビールを呷った。
 すると目の前の彼も、私の真似をしてビールを呷る。
< 6 / 38 >

この作品をシェア

pagetop