フラワーガールは御曹司の一途な愛から離れられない。……なんて私、聞いてない!
「俺だって人間だ、分かるだろうそれくらい」

 私がプシュッとプルタブを開けたのを見て、彼もまた苦戦しながらプルタブを開けた。

「お酒、強いんですか?」

「普通だ。だが、これはそんなにアルコール度数も高くない。この程度、なんてことないだろう。それに……、庶民はこうやって、飲むらしいからな」

 ――分かってくれた?

 それが嬉しくて、頬がにやけてしまう。
 気づかれたくなくて、私はまたビールをぐびぐびっと呷った。

「私ね、本当は雑用なんかしてないで、お花のことだけ考えてたいんですよ? でも、雑用をしないと会社が回らない。理不尽ですよね、他の部署が忙しい、この部署が暇だからって決めつけて。フラワーデザインしてお客様に喜んでもらう、それがフラワーデザイナーの仕事でしょう? なのに上司は雑用しないし、先輩は雑用押し付けるし」

「お前、フラワーデザイナーなのか?」

「そーですよ。ハピエストブライダルっていう会社で、ブライダルフラワーのデザイナーしてるんです。ふふ、お花だーいすきです」

 ああ、やばい、酔いが回ってきたな。
 なんて思いながら、また新しい缶を開けて飲んでいく。
 そうしながら、彼から飛んでくる質問に答えていく。

 やがて、目の前に、五本目のビールの空き缶ができた。

「庶民のこと知れて嬉しいですかー?」

 気づけば、彼はうとうとと船を漕ぐ。

「あれ、酔っちゃってますー?」

「酔っていない……こんな安い酒で、酔うなど……」

 いや、きっと安い酒だからだろう。
 顔を真っ赤にしながら目を擦り、呂律もしっかりしていない。
 説得力がまるでない。

 やがて彼は椅子の背に後頭部をガンっと打ち付けた。
 もう、見ていられない。
 ほろ酔い気分の私は、それで酔いが醒め。

「ほら、お布団行きますよ! 寝室どこですか⁉」

 彼の腕を自分の肩に回すと、思い切ってぐっと持ち上げる。

「うぅ……」

 うめき声が聞こえたが、気にしない。

「その、右の扉……」

 何とか彼をダイニングの入り口まで引っ張ると、言われた扉を開く。

「はいはい、失礼しますよ!」

 ベッドと姿見が置かれたシンプルな部屋内。
 何とか彼をベッドまで引きずり、その縁に座らせる。

「横になれますか?」

「んー……」

 彼は言いながら、ベッドの上にバタンと倒れる。

「あ……!」

 私もなぜか一緒に倒れる。
 彼の手が、私の服の裾をぎゅっと掴んでいたのだ。
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