義兄と結婚生活を始めます
5話
クツクツと音を立てて、煮立ち始めた鍋。
ただ上着を脱いで、ネクタイを取っただけの和真はリビングへ戻ってくる。
ダイニングテーブルの席についた。
あおいの視界に入る和真は、静かに待っている。
暗くならないように、あおいは話しかけた。
「もうすぐ温まりますので、あと少し待ってください」
「どうしてハヤシライスなんですか?」
「き、嫌いでした!?」
和真からの質問に、思わずお玉を落としてしまうあおい。
席から立ち上がった和真は、あおいへ歩み寄った。
「嫌いではないです…が、なぜだろうと思いました」
「えっと、本当はカレーにしようと思ったんですけど…小鳥遊さんの好きな辛さがわからなくて…悩んだ末に…ハヤシライスに……しました…」
お玉を拾ったあおいは、しどろもどろになりつつ、和真からの質問に答える。
そして、鍋へ体を向けるとコンロのスイッチを切った。
「温まりました」
「僕は、中辛のカレーをよく食べます。辛口は辛すぎるのは苦手です」
自分のことを話してくれる和真に、あおいは驚きやら感動やらを感じて、目をパチクリさせた。
すると、和真は思い出したことがあるようで、あおいへまた質問をする。
「食材の購入費はどこから?」
「あ、私の手持ちで…」
「そうでしたか。後で使用した分を渡します」
再び、距離が近くなったようで一気に遠くなったことに悲しさを感じたあおい。
和真は構わずに話を続けた。
「あおいさんはまだ子どもなので、お金を出す必要はありません。何か欲しいものがあったら僕に言ってください」
「……はい…ごめんなさい…」
力なく笑うあおいの顔を見て、和真の頭の中で涼介の言葉が響く。
反射的にあおいの手を取った。
「あ…その、すみません…傷つけたいわけじゃないんです」
「…え…?」
「無理をしてほしくない、だけです」
あおいの手を握ったまま、もう片方の手で顔を覆う和真は、深呼吸して再度あおいを見た。
「えっと…友人から伝え方を変えろと注意されて…、僕は言葉選びが下手なので…あおいさんにきちんと伝わっていないかと思って…」
顔を赤らめる和真は、今までの中で一番人間らしい表情を見せているとあおいは感じた。
和真の言葉が終わるまで、あおいは黙って聞く。
「昨日から言いたかったのは…あおいさんは、ご機嫌?でいてください…ってことで…、えぇと…伝わっていませんね…これ」
「…つまり、期待してないっていう言葉は、無理をするなってこと…ですか?」
「あ、そうです。すごい、あおいさんは言葉が上手ですね」
驚く和真の反応を見て、あおいは吹き出した。
笑うあおいの表情を見て、どこかホッとしている自分を感じた和真。
昨夜からの涙とは違う意味を持つ涙が、浮かぶほどあおいは笑う。
「…笑いすぎですよ…僕の方が大人なので…恥ずかしいんですが…」
「ふふ、ごめ…ごめんなさ…あははっ」
和真の不器用さを感じるあおいは、本当は優しい人であることを初めて知った。
目の前で顔を赤くして、少し視線を逸らす偽りの夫。
良い関係が気づけそうな予感を感じるのだ。
ただ上着を脱いで、ネクタイを取っただけの和真はリビングへ戻ってくる。
ダイニングテーブルの席についた。
あおいの視界に入る和真は、静かに待っている。
暗くならないように、あおいは話しかけた。
「もうすぐ温まりますので、あと少し待ってください」
「どうしてハヤシライスなんですか?」
「き、嫌いでした!?」
和真からの質問に、思わずお玉を落としてしまうあおい。
席から立ち上がった和真は、あおいへ歩み寄った。
「嫌いではないです…が、なぜだろうと思いました」
「えっと、本当はカレーにしようと思ったんですけど…小鳥遊さんの好きな辛さがわからなくて…悩んだ末に…ハヤシライスに……しました…」
お玉を拾ったあおいは、しどろもどろになりつつ、和真からの質問に答える。
そして、鍋へ体を向けるとコンロのスイッチを切った。
「温まりました」
「僕は、中辛のカレーをよく食べます。辛口は辛すぎるのは苦手です」
自分のことを話してくれる和真に、あおいは驚きやら感動やらを感じて、目をパチクリさせた。
すると、和真は思い出したことがあるようで、あおいへまた質問をする。
「食材の購入費はどこから?」
「あ、私の手持ちで…」
「そうでしたか。後で使用した分を渡します」
再び、距離が近くなったようで一気に遠くなったことに悲しさを感じたあおい。
和真は構わずに話を続けた。
「あおいさんはまだ子どもなので、お金を出す必要はありません。何か欲しいものがあったら僕に言ってください」
「……はい…ごめんなさい…」
力なく笑うあおいの顔を見て、和真の頭の中で涼介の言葉が響く。
反射的にあおいの手を取った。
「あ…その、すみません…傷つけたいわけじゃないんです」
「…え…?」
「無理をしてほしくない、だけです」
あおいの手を握ったまま、もう片方の手で顔を覆う和真は、深呼吸して再度あおいを見た。
「えっと…友人から伝え方を変えろと注意されて…、僕は言葉選びが下手なので…あおいさんにきちんと伝わっていないかと思って…」
顔を赤らめる和真は、今までの中で一番人間らしい表情を見せているとあおいは感じた。
和真の言葉が終わるまで、あおいは黙って聞く。
「昨日から言いたかったのは…あおいさんは、ご機嫌?でいてください…ってことで…、えぇと…伝わっていませんね…これ」
「…つまり、期待してないっていう言葉は、無理をするなってこと…ですか?」
「あ、そうです。すごい、あおいさんは言葉が上手ですね」
驚く和真の反応を見て、あおいは吹き出した。
笑うあおいの表情を見て、どこかホッとしている自分を感じた和真。
昨夜からの涙とは違う意味を持つ涙が、浮かぶほどあおいは笑う。
「…笑いすぎですよ…僕の方が大人なので…恥ずかしいんですが…」
「ふふ、ごめ…ごめんなさ…あははっ」
和真の不器用さを感じるあおいは、本当は優しい人であることを初めて知った。
目の前で顔を赤くして、少し視線を逸らす偽りの夫。
良い関係が気づけそうな予感を感じるのだ。