義兄と結婚生活を始めます
考えがまとまったのか、和真はあおいへ視線を向ける。


「僕がまだあおいさんをよく知らないので、もっとしっかり知ってから紹介したい…です」


ドキッ

和真の真っすぐな目に、あおいの心臓は大きく跳ねた。
固まってしまったあおいを見て、和真は小首を傾げる。


「すみません…まだ伝え方に自信がないので…僕が思っていることを言いました…が、伝わりにくかったですか?」

「いえ!びっくりしちゃって…小鳥遊さんの考えを知れて嬉しいです…」

「良かったです」


ホッとする和真は、椅子の背にもたれかかった。
俯き気味になるあおいは、また顔の熱を感じる。


「あと、昨日も言いましたが、あおいさんも小鳥遊なんですが、名前を呼ぶのは嫌ですか?」

「いいえ!その…なんだか、恥ずかしくて…ごめんなさい…」

「そうですか。それでは、恥ずかしさがなくなるまで僕の名前を呼ぶ練習をしましょう」


唐突な和真の提案。
あおいの目はパチクリした。

和真は完食した食器を下げて、リビングを出ようと扉へ向かう。


「お風呂に入ってきますので、少し待っていてください」


あおいへ一言、言葉をかけてから、リビングを出ていった。
いまだに思考が停止して、動きが止まったままのあおい。


(…え…?練習…?名前を呼ぶ…練習…?そんなことする必要あるの…?)


グルグルと思考が回るあおいだが、ボーっとしたまま食器を下げたりテーブルを拭いたりした。
それから、やることを終えた後に、ソファーにポスっと座りボーっとする。

いつのまにか時間が経過していたようで、リビングの出入り口のドアが開いた。


「お待たせしました」


ラフな格好をした、湯上りの和真が声をかける。
ハッとするあおいは、背筋をピンとして真っすぐ正面を見つめた。


「何か飲みますか?」

「いえ!大丈夫です!!」

「わかりました」


和真の方へ顔を向けることなく、正面を向いたまま大きめの声で答えるあおい。
昨夜にあおいが教えてくれたポットでのお湯の沸かし方を、しっかりと守る和真は、お湯が沸くのを待った。

和真のお湯が湧けていくにつれて、あおいの鼓動も早くなりだす。
それから、カチャカチャという音が聞こえてきて、和真が飲み物を入れ終わったのだと感じた。

カップを持って、ソファーへ近づいてくる和真。
あおいは、自分の中でドキドキする音を大きく感じ取る。


「隣に座ってもいいでしょうか?」

「はっ、はい…!!」


あおいの前を通ると、ほんの少しの間を空けて和真は腰を下ろした。
持っていたカップに口をつけて、一口飲んだ。

あおいの視界に入る和真の行動すべてがゆっくりと、確実に進んでいることに緊張感とドキドキ感が強くなった。
ミニテーブルへカップを置いた和真は、あおいへ顔を向ける。


「それでは、始めましょうか」


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