義兄と結婚生活を始めます

和真の言葉と視線に、ビクリと体に力が入るあおい。


「あ…えっと…集まりの際にはきちんと名前を呼びますので…練習をするほどじゃあ…」

「僕が呼んで欲しいと思っています。あと、できるならあおいさんに敬語を使われたくありません」


あおいへスパスパと意見を伝える和真。
直球な言葉を使われるために、あおいはボッと顔が赤くなる。

(ど、どんな顔をすれば…!!)


思わず和真から顔を逸らしてしまったあおいは、顔の熱を鎮めようと落ち着こうとした。
和真からすれば、突然あおいから避けられたように感じて、あおいの顔を覗き込む。


「あの、僕はまた言葉を間違えたでしょうか…?」

「ち、違います!!これは…その…!小鳥遊さんが直球すぎて…!は…恥ずかしいんです!!」

「…直球?」


不思議そうに首を傾げると、あおいの様子をじっと見る。
身体ごとソッポを向いて、深呼吸をしているあおいへ口を開いた。


「すみません、よくわからないのですが、嫌だった…ということでしょうか…?」

「嫌じゃない…です。でも、どうしてそこまで思ってくれるのか…わからないとも思います…」

和真に背中を向けたままのあおいは、自分の気持ちを少しもらした。


「……あおいさんがこっちを向いてくれたら答えます」


その言葉に、あおいはキュッと目を閉じた。
数秒が経過すると、ゆっくり動いて身体を和真へ向ける。

あおいの表情が見えた瞬間に、和真はフッと笑ってしまった。


「わ、笑わないで、ください…」

「すみません…茹蛸という言葉を体現しているようで…ふふ…」


口元に手を抑えて、漏れ出る笑いをこらえる和真。
あおいは、自分の顔を両手で覆った。

そんな行動を見て、咳ばらいをした和真が躊躇いながらも、あおいの手にそっと触れる。


「名前」

「……か…和真さん…意地悪…」


目をギュッと閉じているおいの顔を見て、手を離した和真は微笑んだ。


「今度は、詰まらないように呼んでください」

「…っ…か、~~~和真、さんっ…!」

「うーん…もう一度ですね」


あおいは、胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をした。
そして、目を開けて和真の目を見る。


「和真さん…」


しっかりと目線を交わして、和真の名前をしっかりと呼ぶあおい。
真剣に応えてくれるあおいに、和真は優しく微笑むとコクリと頷いた。


「はい。ありがとうございます」


和真は立ち上がると、コーヒーカップを持って立ち上がる。。
特に何も続かない様子に、あおいは拍子抜けとなった。


「え…あの…?終わり、ですか?」

「…まだ呼んでくれるんですか?」


逆に和真から質問で返されると、あおいは急激に恥ずかしさを感じる。
練習を拒もうとした自分が、続きを要求していることに、気づいたからだ。
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