義兄と結婚生活を始めます

9話


車のドアが開けられると、あおいはお礼を伝えて降りた。
すると、三森は名刺を差し出してくる。


「帰る際にご連絡をいただければ、お迎えに上がります」

「自分で帰れるので、大丈夫です…っ」

「あおい様、お気をつけていってらっしゃいませ」


三森はニッコリと笑うだけだった。
渋々と受け取るあおいは、改めて送ってもらったお礼を伝えると、千尋との待ち合わせ場所へ向かう。

受け取った名刺に書かれた三森の名前と連絡先を見て、ため息をつくあおいはカバンの中にしまった。


「あおいー!」

「…ちーちゃん…!」


駅前であおいの姿に気づいた千尋は、笑って手を振る。
あおいも、千尋の顔を見て嬉しそうに駆け寄った。


「久しぶり!卒業式以来だよ~!」

「ほんとだね!会えて嬉しい!」

「今日、めっちゃくちゃ楽しみだったんだから!」

満面の笑みで千尋と笑い合うあおい。
中学校の頃に戻ったような感覚で、自分も楽しみだったことを伝える。


「私もだよ!でも、急に誘ってごめんね…?」

「そんなの気にしないでよ。春休みの間は絶対に遊ぶって思ってたんだから!で、服見るって言ってたけど、どんなの見るの?」

「えっと…ちょ、ちょっと余所行き…?恥ずかしくないような服…」


もじもじしながら質問に答えるあおいに、千尋は感を働かせた。
千尋は顎に手を添えると、ニヤリと笑う。


「なぁに?彼氏でもできたの?」

「ちっ!違うよ!!えっと、お…お姉ちゃんと、こんっ、婚約者さんと一緒に出掛けることになっただけ!!」


赤くなるあおいは、勢いよく千尋へ反論した。
あおいの勢いの良い反論に、驚く千尋は黙ってしまう。

ハッと気づいたあおいは、小さく謝った。


「ご、ごめんね!…お姉ちゃんが恥ずかしくないような服を選びたいんだけど…ちーちゃんに手伝ってもらいたい…です…」

「もっちろん!あおいのお願いだもん!」

「ありがとう、ちーちゃん…っ」


笑顔で答えてくれる千尋に、あおいは安堵の表情を見せる。



「それにしても、本当あおいってすみれちゃん大好きだね~」

「…えへへ…」

千尋の言葉に照れたようにあおいは笑う。
それから、二人は並んで歩き出すと、駅内にある様々なショップを見て回った。


千尋が選んだ服を試着してみたり、あおいが選んだ服に対して意見を求めたりする。


「うーん…似合うけど…あおいにしては派手、かも…?」

「私もそう思う…動きやすさはあるけど…」

「はい!次!」


一瞬でも悩むようなら、次に用意していた服と交換して、千尋はどんどん進めていった。
服を受け取るあおいは、思わず笑ってしまう。


「なに?どうした?」

「いや…あはは、ちーちゃんの判断が早すぎて…ふふ…っ」


首を傾げた千尋。
笑うあおいの頭の中には、和真のことが浮かんでいたのだ。
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