義兄と結婚生活を始めます

悲痛な顔を見せる両親。


「…あおい、ごめんな…」

「大丈夫っ、お姉ちゃんみたいに完璧かはわからないけど、今日だけだし…」

「…あおい…」


涙を流す両親と苦笑いをする新婦。
今の家族は、本来の幸せな時間を過ごす家族とは、全く逆であった。

そして、両親に連れられて、あおいは控室を後にする。

今はただ今日の式を乗り越える、そんな決意を固めながら、不安を胸に抱いていた。



式場の閉じられた扉の前で、父親と待つあおい。
父親の腕に手を添えると、震えそうな声で聞いた。


「お…お父さん…」

「ごめんなぁ…あおい…でも、この後はお父さんに任せなさい」


微笑む父親の顔にあおいは小さく頷く。
すると、準備が整ったことをスタッフから伝えられた。
花束を渡されると、ゴクリと固唾を飲んだ。

ついに、目の前の扉がゆっくりと開いていく。
漏れ出てくる光に、あおいは思わずめを閉じてしまうが、再度目の前を見た。


「…っ…」


ワッと盛大な盛り上がり、拍手が鳴り響く。
体が強張るあおいだが、父親が歩き始めたと同時に足を前に進めた。

視界に入ってくるのは、ビシッとスーツを着た人たちばかり…。
あおいは、ただの結婚式なのか疑問に感じ始める。


(…ば、バレて…ない…?)


しかし、疑問よりもバレないかの緊張が勝り、なるべく下を向いて歩いた。

途中、ヒソヒソと話す素振りを見せる婦人に気づき、花束を持つ手が震える。
一気に不安が押し寄せてくると、あおいは立ち止まってしまった。


「ど、どうした?」


驚く父親に返事もできなくなっているあおい。
自分の体から血の気が引いていくのを感じた。


「ここからは私が引き受けます」


父親とは別の声にあおいは顔を上げる。
和真があおいと同じ視線に合わせて、腕を差し出した。


「さぁ、早く終わらせましょう」


その言葉にあおいは唖然としてしまったが、不思議と終わらせたがる和真の声で落ち着いた。
父親から腕を離す。


明るい場所で見ると、より顔の良さが引き立つ和真。
あおいは、おずおずと和真の腕に手を添えた。

本来なら、姉が立つはずの横に自分が立っている…申し訳なさを感じつつも、あおいは顔を上げる。


「ごめんなさい、行きます」

「はい、そうしてください」


和真と2人で歩き出し、司祭者の元へ近づいていく。
すると、あおいはここでハッとした。



(ま、待って…え……誓いのキスっ…とかいうのが…!!?)


頭の中で混乱するあおいだが、司祭者の前にくると和真と共に、無意識でもキッチリ止まる。

読み上げられていく誓いの言葉。
姉のフリだとしても、罪悪感に駆られた。


「…〜誓いますか?」

「海崎さん返事を」

「…え!?あ、は、はい!違います!…あ…」


(…やってしまった…)


考えばかりだったあおいは、言い間違えに青ざめた。
大きな声であったために、おそらく周りにも聞こえていたのだろう、式場は静まり返った。
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