義兄と結婚生活を始めます
料亭を出た和真と社長は、車に乗り込む。
「社長、午後からはY社との会談後、株主総会に向けた資料に目を通してもらってて」
「和真。海崎すみれの行方はまだわからんのか?」
「……報告はありません。わかり次第、すぐにお伝えします」
ため息をつく社長は、眉間にしわを寄せると、また腕組みをしてちらりと車窓から流れる景色を見つめた。
和真はタブレット端末を取り出して、とあるファイルを開いて読み込む。
読み終えた後に、一瞬だけ社長へ視線を送るが、すぐに端末へ視線を落としてファイルを削除した。
…—
「つ、疲れたぁ~……」
「お母さん、怖い…心臓持たない…」
「お父さん、胃がもう…限界突破……」
椅子に寄りかかると、各々の状況が言葉となって漏れ出てきた。
あおいは改めて深呼吸すると、先ほどの女性の言葉を思い返す。
『一般家庭の出だから』
『小鳥遊の名に泥を塗らないで』
(…お姉ちゃんが言われなくて良かった……どこでどうしてるんだろう…)
ふと、ポケットからスマホを取り出してMINEを開いて見るものの、相変わらず既読の付いていなかった。
寂しい気持ち・心配な気持ちから、あおいは父親へ問いかける。
「ねぇお父さん。お姉ちゃんのこと何かわからないの?そっちのも連絡ない?」
「ん?あ…あぁ!連絡はない、な…」
「せめて元気にしているかだけでも教えてくれてもいいのにね…」
しんみりとするあおいと母親に対して、和真との約束のために本当のことを言えない父親は、申し訳なさを感じた。
すると、母親がパンッと勢いよく手を叩いて、あおいと父親をビクつかせる。
「今日はおめでたい日!あおいの入学式で、久々に家族が揃ったんだから、お話ししましょ。あおい、小鳥遊さんとはどうなの?ちゃんとうまくやれてる?」
「う、うん…あ、そういえば、最初はケトルの湧かし方とか知らなかったんだよ。でもね、たぶん動画とかで見たのか、朝ご飯作ってくれる日があってね。お店みたいにきれいなオムレツが美味しかったの!」
「ただの御曹司じゃないからなぁ…天才だなぁ…」
「………そう…だね……」
父親のへらッとした笑顔と言葉を見聞きしたあおいは、小さな違和感を覚えた。
しかし、すぐに打ち消すように、普段の生活のこと中心にを両親へ話す。
水族館デートのことを話してしまえば、父親が卒倒してしまうのではないかというのと、気恥ずかしい気持ちがあったため、できなかった。
それから、ある程度談笑を終えると、三人は三森の運転する車に乗って、帰路につく。
窓から見える景色はもう薄暗くなっていた。
(明日からは和真さんとの生活…に加えて学園生活、かぁ…)