義兄と結婚生活を始めます
しかし、‟海崎”の名前を出されてドキッとするあおいは、慌てて立ち上がった。
「未来ちゃん、咲ちゃん!先に教室戻っててもらえる?」
「え、えぇ…わかりましたわ。行きましょう咲」
苦笑いで謝ったあおいを残して、未来たち二人はその場を離れた。
残ったあおいと男子生徒の間には沈黙が流れ、噴水の水音がやけに大きく響く。
同時に風にゆれる草花の音も聞こえてくるように感じた。
(どうしよう…海崎の名前で呼ばれた…知ってる人?いやでも、知らない…同じ中学の人じゃないし…。もしかしてバレちゃったとか…!?)
あおいの頭の中はぐるぐると思考が回るものの、ぐちゃぐちゃになりそうになった。
顔を上げた男子生徒は、少し茶色がかった髪色に、クリッとした目。
柔らかな雰囲気をまとう、いかにもクラスの中心にいそうな容姿だ。
「ふー…、ごめん。急に。久しぶり」
「へ…?」
「え!?覚えてない!?」
少しショックな表情を見せる男子生徒は、あおいのハンカチで流れる汗を拭いた。
「あー…まぁ…結構経つもんなぁ…。俺、草野。草野祐希。小学校の頃一緒だっただろ?」
「………あ!!祐希くん!?」
「そう。思い出した?」
「うん!久しぶりだね!びっくりした!」
ようやく思い出すと、笑顔を見せるあおいとは反対に、祐希はその場に座り込んだ。
急なことにあおいはあたふたして、しゃがみ込む。
「ゆ、祐希くん!?どうし」
「よかったぁ…!あおいに忘れられてたら…って、ずっと考えてたからさ、本当によかった!」
安堵した笑みを見せる祐希。
小学生の頃にも同じように笑っていたことを思い出すと、あおいもつられて笑ってしまった。
それから二人は小学生の頃の話を中心に話が盛り上がった。
校庭でも休日の公園でも、よく一緒に遊んでいた話。
あおいが木から降りられなくて泣いて助けた話は、さすがに恥ずかしさでいっぱいになる。
笑い声と話が尽きないと思われたが、ひとしきり話したあと、再度の沈黙が流れた。
先に口を開いたのはまたもや祐希だった。
「なぁあおい、なんでこの学園にいんの?俺は、父さんが県議員だからここに入るしかなかったけど、あおいは一般家庭だったろ?それに、入学式では小鳥遊家の御曹司に直接なんか言われてたし…それも気になるんだけど?」
「…えっと……それは……今は…言えない、かな…ごめんね…」
「変わんないな。謝る癖。別に無理に聞かないけど、一応初等部からいるし、なんかあったらいつでも相談しろよ?あ、俺1年7組」
「ありがとう…。私は3組」
ちょうど予鈴が鳴ると、あおいは立ち上がって教室に戻ることを祐希へ促す。
しかし、祐希は立ち上がらず、ベンチに座ったままだ。
ふり返ると、あおいの手を取って立ち上がった。
「あのさ…!!あの……」
「祐希くん?」
「………いや、何でもない。戻ろう」
あおいの手を離すとニッと笑って、先を歩き出した。
よくわからないあおいだったが、顔を赤くしていた祐希に気づくこともできなかった。