一夜の甘い夢のはず
「あれ? 麗華さんは……」

「私の顔を見たかっただけとかで、もう帰りましたよ」

 トイレから戻った私は拍子抜けしてしまった。
 部屋に戻った私を出迎えたのは、雛宮さんとソファーに座った桜雅さんだけだった。
 今日の桜雅さんはパーティーにでも出席していたのか、ダブルスーツにボウタイをしている。滅多に見ることのないスーツファッションに、胸の高まりが増す。
 桜雅さんの妹なんだからきちんと挨拶をして向き合おうと気合を入れてきたのは無駄になってしまったけど、ちょっとデートっぽくなってきたかもしれない。雛宮さんはいるけど店員さんだし、想像していたショッピングデートとは全然違うけど、二人で過ごせることに喜びがこみ上げる。

「よかったら、今度はこちらなどいかがでしょうか?」

 私が桜雅さんの隣に腰掛けると、テーブルに用意されていたトレーを案内される。
 さっきまできらびやかな宝飾品が置かれていた場所には、今度は布地が置かれていた。ハンカチよりも大きくて艶のある生地――これは、スカーフだ。
 スカーフなんて、これまでの人生で一度も使ったことがない。
 キャビンアテンダントにでも転職しない限り、今後も縁のないものだと思ってた。

「これなど、よくお似合いだと思いますよ」

 さっと桜雅さんの手がロイヤルブルーの縁のスカーフを手に取った。私の知識にはなにかの道具のようなものが描かれていてよくわからない柄だったけど、金色でなかなか派手な印象だった。

「失礼」

 短い言葉の後、桜雅さんの手が私の首に回る。
 距離が一気に近くなって、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配になってしまう。

「やっぱり、よくお似合いです」

 鏡を見せられて、不思議とトイレで見たときよりも自分の顔色が明るくなっているような気がした。
 トレーに置かれていたときは派手すぎる気がしたのに、首元に巻かれると不思議としっくりくる。
 シルクなのかとても肌触りが滑らかでなんだかんだこれも高級な品だとは思うけど、まさかさっきの宝飾品を超えはしないと思うしと、私はこれを桜雅さんから受け取ることにした。
< 16 / 27 >

この作品をシェア

pagetop