人気イケメンダンスグループのボーカル担当『天野先輩』に溺愛されました。
 天野先輩は微笑みながらこっちを見て、両手を前にだしてきた。

 写真集を貸してってことかな。

「写真集ですか?」
「うん、そう」

 先輩の手にふわっと写真集を乗せた。先輩はカバンからペンを出すと「書いていい?」と訊いてきた。

 何を書くのか分からないけれど。
 先輩がやることだから、悪いようにはならないかな?

 とりあえず、うなずいてみた。

 すると先輩は写真集の最後のページを開いて、さらさらと慣れた手つきでペンを滑らせていく。

「実は僕もあの日、本屋に行って本当に自分の写真集がお店に並んでいるか、こっそり確認したかったんだよね」
「そうだったんですか?」

「うん。そして売れるかな?ってのも気になりすぎて。もしも無事に写真集が並んでいたら事務所のダンスレッスンが始まる時間まで、ちょっと本屋でこっそり様子を見ようかなと思って」

 そうだったんだ……。
 
 あの日は私も学校が終わってからすぐに写真集のために本屋へ行った。
 先輩も写真集が目的であの本屋に。

 世間から見たら明らかに大人気な天野先輩。写真集の売れない未来なんて、一切想像出来ない。たくさん売れるに決まってる。ネット予約も大人気ですごかったらしいし。でも自信を持ちすぎないところが先輩っぽくて、良い。

「あの時あの場所にいたのは、お互いに写真集目的だったんだ、そっかぁ」

 先輩はそうつぶやくと、口角を上げた。

 それから黙々と写真集に何かを書き出した。書き終わったのか、動きが止まった。自分の書いたものを何回か読み返している様子。

「出来た! メッセージとサイン書いてみたけど、目の前で見られるの恥ずかしいからあとで見てね?」

 そう言って天野先輩は、ぱたんと写真集を閉じた。

 なんて書いたのかが気になりすぎるけれど、言われた通りに見ないでカバンに写真集をしまった。

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