愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
『ハルトはさ、セクシーかキュートかの二択なら、迷わずキュートを選ぶタイプだよ』


 旦那様との付き合いが長いプレヤさんが言うことですからね。間違いありません! 
 なので、わたくしは潔く背伸びするのをやめました。――いえ、やれと言われたところでできる気がしないんですけれども。


 さてさて、キュートの定義というのがなかなかに難しい気がするのですが、プレヤさん曰く『自然体が一番いい』んだそうです。なので、アイシャドウとチークは色味が強くないものを選びました。


 だけど、口紅だけは別です。
 だって、選ぶときに店員さんから『これを使ったら男性がキスしたくなる』って触れこまれてしまったんですもの! 是非ともあやかりたい――試さない手はない、と思うじゃありませんか?


(どうでしょう? ちゃんと可愛くなっているのでしょうか?)


 あまりにも早朝すぎるため、侍女たちにはまだ眠ってもらっています。だけど、自分以外の誰かの感想が聞きたくてウズウズしてきました……! 
 最終的には旦那様に気に入っていただけなければ意味がないってわかっているんですけれども、今日という日に賭けているわたくしとしては、いわば最重要ポイントだと思うのです。


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