愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「美味しいですね、ハルト様」

「うん。だけど、俺にとってはクラルテの料理が一番美味しいよ」

「本当ですか!? わたくしの料理が? 一番?」

「もちろん。これまで食べたどの料理よりも美味しいよ」


 それは嘘偽りのない俺の本心だった。できることなら、毎日毎食、彼女の手料理を食べていたい。

 真心のこもった食事があんなにも美味しいなんて、俺はちっとも知らなかった。食事とは、生命と肉体、健康を維持するためにあるもので、それ以外の感情――喜びを伴うものとは思いもしなかったからだ。


「でしたら……また作ってもいいですか? 毎日じゃなくて、お休みの日だけでも。その……貴族らしくない行為ではありますけれども」

「そんなこと、俺はちっとも気にしないよ。クラルテはクラルテだ」


 たしかに、クラルテは貴族らしくはないかもしれない。パワフルで、底抜けに明るくて、いつも一生懸命で――やりたいと思ったことは他人に反対されてもやりとおす。そんな彼女を――――そんなクラルテだからこそ、俺は愛しく思うのだ。


「それじゃあ、次のお休みには、腕によりをかけてご飯を作りますね!」

「ああ、楽しみにしている」


 今にも泣き出しそうなクラルテを見つめつつ、俺は目を細めた。


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