愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「わたくし、友人たちがパートナーと一緒に夜会に出席するのを見ながら、羨ましいなぁって思ってたんですよね。ほら、アカデミーでも半期に一度は夜会を開いているでしょう? ダンスだってたくさん練習したのに、一度も披露できていませんし」

「一度も? ……それじゃあ、誰からも誘いを受けなかったのか? クラルテが?」


 そんなまさか、とつぶやきつつ、ハルト様はわたくしを見つめます。


「お誘いは受けてましたよ。だけど、最初のダンスはハルト様がいいからってことで、全部お断りしてきました。ねえハルト様、わたくしってめちゃくちゃ一途な女でしょう?」


 えへへと笑って見せれば、ハルト様は感極まった様子で、わたくしのことを抱きしめます。


「――やっぱり、独り占めしたらダメ?」

「ダメです」


 苦笑しつつ、わたくしはハルト様の頬に口づけるのでした。


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