愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

30.お呼びでないんだよ①

(すっかり遅くなってしまった)


 ため息をつきつつ、俺は夜会会場へと急いで戻る。

 クラルテをひとりで会場に残してきたのは、どう考えても失敗だった。彼女のことが気になって、プレヤさんの話があまり入ってこなかった。

 そもそも今は非番だし、クラルテに聞かれても差し支えのない内容だったのだから、わざわざ彼女と離れる必要などなかったというのに。

 もう一度ため息をつきつつ、会場内へ足を踏み入れようとしたそのときだった。


「久しぶりね、ハルト」


 おもむろに声をかけられ、俺は思わず振り返る。次いで視界に入ったのは真っ赤なドレスにゴテゴテした宝飾品、化粧の派手なブロンドの女性だった。


(はて……誰だったか)


 俺を呼び捨てにする女性など思い当たらない。クラルテですら敬称をつけてくるというのに……そう思ったとき、脳裏に一人の女性が浮かび上がった。眉間にしわを寄せ、まじまじと見る。


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