愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「そもそも見送りは? 従者は? ひとりでここまで来たのか?」


 いや……一緒に来ていればさすがに挨拶されるだろう。おそらくひとりで来たのだろうとわかってはいるのだが――。


「そうですよ〜! わたくし、転移魔法が得意だと申しましたでしょう? 馬車なんて雅な乗り物を使うことなく、遠方の領地からここまで来ることができるのです!」


 ニコニコと得意げに笑いながら、クラルテが敬礼をする。俺は思わず隣の荷物に視線をやった。


「だったら、そんな大荷物を抱えてくる必要なんてなかったんじゃ? 転移魔法で飛ばせばいいわけだろう?」

「いえいえ、必要ですよ! だって、こっちのほうが雰囲気出るじゃありませんか! いかにも押しかけ女房って感じがするでしょう?」


 クラルテは至極真剣な表情でそんなことを言ってのける。本人、まったく悪びれる様子がない。


「……今からでも実家に帰るか?」

「絶対嫌です!」


 ニコリと押しの強い笑みを浮かべるクラルテに、俺はまたもや苦笑してしまった。
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