愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!

31.お呼びでないんだよ②

「ハルト様っ!」


 そのとき、背後から愛らしい声音が聞こえてきた。振り返るまでもない、クラルテだ。彼女の声を聞くだけで、ささくれ立っていた心がみるみる癒やされていく。ホッと安堵のため息をついたその瞬間だった。


「キャッ!」というクラルテの声と、
バシャ! という水音と、
「なっ!」というロザリンデの声が連続で聞こえてくる。


「ヤダ、ごめんなさい!」


 クラルテが言った。どこか演技がかった声だ。それと同時に、クラルテは俺からロザリンデを引き剥がし、困ったように首を傾げる。


「わたくし、つまずいてしまって……お召しものを汚してしまいました。本当に申し訳ございません」


 見れば、ロザリンデの背中がビッショリとワインで濡れていた。クラルテの手には空になったグラス。どうやらクラルテはロザリンデにワインをかけてしまったらしい。


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