愛する婚約者様のもとに押しかけた令嬢ですが、途中で攻守交代されるなんて聞いてません!
「こう見えてハルト様ってわたくしにべた惚れですし! あなたと隠れて会うとか絶対ありえませんから!」

「嘘よ! そんなこと、あるはずないわ。だってこの男、あたしのことを引きずって、結婚を拒否していたって聞いたもの。それに、あたしのほうがずっと……」

「クラルテの言うとおりだよ」


 言いながら、俺はクラルテの額に口づける。頬に、鼻頭に、と口づけているうちに止まらなくなって、結局唇にもキスをしてしまった。


「なっ……!?」

「お前はお呼びでないってこと。いい加減わかれ」


 真っ赤になっているクラルテを抱きしめつつ、俺は静かに息をつく。

 ワイングラスだけを置きに戻り、俺たちは夜会会場から背を向けた。けれど、数歩歩いたところで、クラルテがふと足を止める。


「あっ、そうだ。最後に一つだけ忠告を。ロザリンデさん……ハルト様にちょっかいを出す前に、もっとご自分の夫を気にかけたほうがいいのではないでしょうか?」

「なにそれ。どういう意味よ」


 ロザリンデは眉間にしわを寄せ、クラルテのことをにらみつける。


「いえ……そのまんまの意味ですよ?」


 クラルテは無邪気に笑ってみせると、俺の手をグイグイ引っ張って歩くのだった。
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