愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
❇︎❇︎❇︎❇︎

 ──空を。

 仰いだシャンガの顎の下を風が流れ、戦闘の熱を冷やしていく。
 心地よい涼しさが、胸元の虚しさを抜けていく。
 
 シャンガは、師を止める責務から解放された。
 それはこんなにも清々しく、淋しい。

 空ごと抱きしめるように、大きく開いた腕で、師が遺した空っぽの体を掻き抱く。
 この枯れ衰えた体で、彼が望んだもの。
 
 生命(シャンガ)
 
 これからもその道が続いていくと信じて逝った彼を、ひとつ裏切ることになるだろう。

 下にいる兵隊たちからの砲撃が続いている。
 シャンガがゼウラを屠ったとまだ知らないか、あるいは大賢者のこと、何が起こるかわからぬから、徹底的に滅ぼそうと考えているのか。
 戦いの去った城壁に、今も砲弾が撃ち込まれ、爆裂し、その位置が徐々にシャンガへと近づいてくる。
 
 何度も周辺を撃ち抜かれ、シャンガのへたりこむあたりは脆くなっていた。
 いまさら、避難など考えない。
 ゼウラの長く骨ばった探究者の持つ指に、己の剣だこができた指をしっかりと絡める。
 閉じられた瞼に、そっと唇を寄せて。
 シャンガが唇でゼウラに触れるのは、これが初めてだった。

「師匠……愛しています。幼き日より、……最期まで、いえ、違いますね師匠ずっと昔に言ってくれた……そうか……永遠──」

 接している床面から、脈動のような衝撃を受けた。
 すぐ下に砲弾がめり込んだのだろう。
 シャンガの地面だった石積みが、ばらりと解け。一人と一人だった亡骸が空中に投げ出される──

 それでも、繋いだ手は離れることがなかった。
< 13 / 14 >

この作品をシェア

pagetop