愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
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 旅ゆくシャンガが立ち寄った酒場で、女中がゴロツキに絡まれていた。
 同じ女として放っておけず、シャンガは口を挟んで女中を逃した。
 そのことで、ごろつきは当然シャンガにくってかかり、事態は暴力沙汰への坂を転がりはじめた。

「殺すぞこのアマァ!!!」

 ゴロツキの、おそらく習慣になっているくらい口にしている言葉が、シャンガの取り繕っている外面にピシピシと割れ目を入れてくる。

(──ああ、この男は今、私の逆鱗に針の先ほど触れてしまった)
 
 殴りかかってきた拳をひらりと避けると、激昂したゴロツキは「クソッぶっ殺す!」とウェイトをのせた大ぶりな拳を突き出すから。

 その力点を見極め掌底で受け、正中をずらした。
 姿勢の崩れた男は、シャンガのいない斜め前方へと前傾姿勢になり、ガラ空きの背後はシャンガにどこでも打ってくださいと晒される。
 叩きたい放題の背面に手刀を思うだけ叩き込んだ。
 速すぎて、一撃に感じられるような連打。
 ぐはっ、とうめきと生唾を吐いた男は前へ流れる勢いを失って床に落ち、顎をぶつける。

 襟首をつかみあげ、シャンガは歯を食いしばりながら敵意にみなぎらせ、ごろつきを凝視する。

「殺す殺すって、よくもまあ軽々しく口にできるな、ふざけるな!」

 ()め付ける視線にゴロツキは(おこり)をおこしたように震え出す。

「まず殺したことも、殺す寸前までだってやったこともない分際で。お前。ただ、自分の幼稚な感情をぱっと見重そうな言葉で露出しただけじゃないか。しかもそれが恥ずかしいことだと、理解すらぜず、こんなこと言えちゃうんだぜと調子にのっているのだから見苦しい」

 シャンガは寄せた男の耳元に、氷を浮かせた冷水の、殺意に満ちた声を流し込む。
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