愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
「わかるんだよ、本当にできる器じゃないこと。とにかく他人を傷つけたい、って程度の気持ちしか持ったことないくせに。実行もできない奴がやりもしない殺意をひけらかしてるのを聞くと反吐が出る! 浅い! 重いはずの言葉を、その程度で垂れ流すなんて。そんな振る舞いしかできない程度だから、こんな場末の酒場で今日もこれからも、酒浸りでくすぶるしかできないんだろ!」

 こんな薄っぺらな人間なんかに、人を殺めるということがわかってたまるか。
 気安く殺すと言われてたまるか。

「この三下が」

 このごろつきは知りもしなければ想像もできないだろう。

 ほんとうに人の首に刃を向けて、あとひと押しで命を奪う際の逡巡や、踏み越えてしまう自身への哀しみ。
 吸ったきり息を止めて、空気を胸に深く深く留まらせて、吐き出しもせずまた吸って引きつりそうな胸がどうなのか、なんて。

 「殺す」これはシャンガにとっては必ず実行しなければならない命題だ。
 ()る気もない者にチラつかされるのは、誰よりも愛する人間を殺さねばならないと、もう生かしておけない殺すべしと刃を向け仕留めかけ……次は必ず殺すと決意を持ち続けるシャンガへの冒涜ではないか。

 べしゃりと投げ捨てたゴロツキは、シャンガの正気がどうのと呂律の回り切らない罵倒を残し、腰も満足にあげられず酒場を転がり出ていった。

「師匠……あなたは必ず、私がこの手で殺める」

そして、今もどこかで続けようとしている悲劇を止める。
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