恋は秘密のその先に
「それでは、本日のご予定をお伝えいたします」

 正式に副社長秘書となってから1週間が経った。

 今朝も真里亜は、タブレットを見ながら文哉に予定を伝えることから業務を開始する。

「……本日のご予定は以上です」
「分かった。ありがとう」

 真里亜はお辞儀をしてから給湯室に向かい、ドリップコーヒーを濃いめに淹れて文哉のデスクに置く。

「どうぞ」
「ありがとう」

 すると、真里亜のデスクの内線電話が鳴った。

「はい、副社長室です」
「代表電話に、キュリアス ジャパンの社長秘書の方からお電話が入っております。お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」

 (キュリアスの社長秘書? もしかして! セキュリティシステムに不具合でも……)

 内心青ざめながら「はい、繋いでください」と答える。

「もしもし、お世話になっております。キュリアス ジャパン 社長秘書の川上と申します」
「こちらこそ、大変お世話になっております。AMAGIコーポレーション 副社長秘書の阿部と申します」

 電話ではあるが、真里亜は丁寧にお辞儀をしながら返事をした。

「突然お電話を差し上げて申し訳ありません。実は弊社の社長が、天城副社長と阿部様にお会いしたいと申しております。恐れ入りますが、ご都合をお聞かせいただけませんか?」
「かしこまりました。すぐに確認いたします。あの……、その前に。もしや弊社のセキュリティシステムに何か不具合でも生じたのでしょうか?」
「あ、いえいえ! そのようなことはございません。社長がお二人をお食事にお招きしたいと申しております。そこで、今後のお話もさせていただければと」

 (今後の……?それは、つまりどういった?)

 とは思うものの、これ以上この電話で秘書同士で話すべき内容ではないと思い、真里亜は、少々お待ちいただけますか?と保留音を流した。

「副社長。キュリアス ジャパンの社長秘書の方からお電話です。キュリアスの社長が、副社長をお食事に招いて、今後のお話もさせてもらいたい、とのことだそうです。ご都合は? と聞かれました」
「キュリアスの社長が? 話って、もしやうちのシステムに何かあったのか?」
「いえ、そうではないようです」
「そうか。何だろうな……。とにかくこちらの都合はいつでも大丈夫だと伝えてくれ。優先してリスケ頼む」
「かしこまりました」

 真里亜は保留音を止めてその旨を伝える。
 すると今夜にでも、と言われ、驚きつつも文哉は頷いてみせた。
< 104 / 172 >

この作品をシェア

pagetop