恋は秘密のその先に
「絶対嘘だもんね。私、大いびきなんてかいてないもん。もしかいてたら、CAさんが起してくれたはず。いや、そんなことないか?」

 ブツブツ呟きながら、真里亜はスーツケースから私服を取り出して着替える。

 さっきの文哉は、紺のシャツにアイボリーのざっくりしたニットを重ねていたから、同じようにカジュアルな感じでいいか、と、真里亜はオフホワイトのパンツに、トップスは水色のニットにした。

 ブーツを履いて斜め掛けのバッグを肩に掛け、紺色のミディアム丈のコートを羽織る。

「あ、そうそう!」

 先程、文哉に借りていたマフラーを手にすると、壁のドアをノックした。

「副社長、支度出来ました」
「よし、行くか」

 ドアを開けると、文哉がコートを羽織りながら出口に進む。

「これ、ありがとうございました」
「ん」

 廊下を歩きながら真里亜からマフラーを受け取ると、文哉はそれを広げてまた真里亜の首に巻いた。

「え? あの、もう大丈夫ですから」
「俺もいらない。邪魔だから着けてて」
「あ、そうだったんですね。持って来てしまってすみません。お部屋に戻ったらお返ししますね」
「ああ」

 二人はホテルの外に出る。

「とりあえずブラブラして、良さそうなカフェでも探すか」
「はい」

 ホテルはマンハッタンの中心部。
 ぐるっと見渡しただけでも、いくつかカフェがあるのが見える。

 なんとなく歩き始めると、人が多くて思いのほか歩きづらい。
 それにすぐ横の車道も、車がひしめき合っていて危なかった。

「アメリカってゆったり広いイメージでしたけど、なんだか日本よりも人混みがすごいですね」
「マンハッタンのクリスマスシーズンだからな。ほら、危ないぞ」

 前から歩いてきた大柄な男性とぶつかりそうになり、文哉が真里亜の肩を抱き寄せる。
 そのまま真里亜を自分の反対側に連れてきて、文哉は真里亜と立ち位置を変えた。

 いつの間にか車道側を文哉が歩いてくれていることに気づいて、真里亜はそのスマートさに感心する。

(わー、なんか副社長、アメリカのジェントルメンにも負けてないわあ)

 肩を抱いたまま自分を守って歩いてくれる文哉に、真里亜はなんだか照れくさく、そして嬉しくなった。
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