恋は秘密のその先に
(どこへ行くんだろう?)

真里亜は不思議に思いながらも、黙ってついて行く。

「ここは…」

辿り着いた場所は、マンハッタン南部のグラウンド・ゼロ。

『National September 11 Memorial & Museum』

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の公式追悼施設だった。

ワールドトレードセンター跡地に設置されたリフレクティング・プール。

そのモニュメントには犠牲者の名前が彫られていて、それぞれの誕生日にはボランティア団体によってバラの花が飾られる。

「俺、小学3年生の夏休みに来たことがあるんだ。ワールドトレードセンターの展望台に。あのテロが起こったのは、そのすぐあとだった」

モニュメントを見つめながら、ポツリと文哉が呟く。

「今でも展望台のチケットは大事に取ってある。ずっとここに来たかった」

真里亜は黙って文哉の言葉を聞いていた。

あのテロ事件があった当時、真里亜はまだ3歳になったばかり。
もちろん記憶はない。

ニュースや記事でどんなに悲惨な事件だったかは知っているつもりだったが、実際にこうして現場に立ってみると、口を開くのもはばかられた。

二人は黙とうを捧げたあと、ミュージアムへと足を運んだ。

あの日に起こった事件の解説や展示、映像上映などが行われている。

(こんなにも綺麗に晴れ渡った青空で起きたんだ)

あの時間の真っ青な空の写真。
あの日全世界に流れたニュース番組。
目撃者の証言音声。
ビルが倒壊し、煙が人々を飲み込もうとする映像。
全てがリアルで、真里亜の胸に迫ってくる。

そして犠牲者の方々の写真…

真里亜は唇を噛みしめて必死に涙を堪える。

「大丈夫か?」

文哉が心配そうに真里亜の顔を覗き込んだ。

「大丈夫です。私はこの事実を知らなければいけない。ちゃんと心に刻み込まなければ」

文哉はそっと真里亜の肩を抱き寄せた。
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