恋は秘密のその先に
 その日は一日がかりで、真里亜はキュリアス USAに贈る品を手配していた。

 カレンに連絡を取り、ジョンと奥様に日本酒を贈ろうかと思うが、大丈夫だろうか?お二人のお酒の好みは?と聞く。
 すると、お酒は何でもいけるご夫婦で、日本酒も喜ばれると思う、と返事が来た。

「良かった! 住谷さん、美味しい日本酒ってどれですか? おすすめはありますか?」
「えーっと、そうですね。それでしたら私がいくつかピックアップして、あとでお知らせいたします」
「え? あ、はい。よろしくお願いします」

 急に他人行儀な口調になった住谷に首を傾げつつ、真里亜は他の品を注文していった。

 そして、同封するお礼状を英文で書く。
 気づくと、定時の18時になっていた。

「真里亜ちゃん、残りは明日にしたらどう?」
「あ、はい。住谷さん、明日も出勤されますか? 私、キュリアス ジャパンの社長にも、ニューヨークのご報告とお礼状、あとは贈り物の手配もしたくて……」
「ああ、分かった。明日も出勤するから一緒にやろう」
「すみません、年末なのに」
「気にしないで、どうせ暇だから。あと年賀状関係も、送り漏れがないか一緒にチェックしてもらえるかな?」
「はい、もちろんです。ではまた明日、よろしくお願いします」

 真里亜が帰る支度をしていると、住谷が文哉に声をかけた。

「副社長。真里亜ちゃんを車でご自宅までお送りしてもよろしいですか? ご心配なら、ドライブレコーダーをチェックしていただいて構いませんから」
「ああ、分かった。頼む」
「かしこまりました」

 じゃあ下で待ってるね、と真里亜に言い残し、住谷は先に部屋を出た。

「それでは、お先に失礼いたします」

 文哉にお辞儀をしてドアに向かおうとした時、真里亜、と文哉が呼び止めた。

 はい、と振り向くと、すぐ目の前に文哉が近づいていた。

 わっ、と驚く真里亜を文哉が両手で抱え込む。

 ギュッと全身を抱きしめられ、気づくと文哉に深く口づけられていた。

 ん……、と真里亜が吐息混じりの声を上げる。

 情熱的な文哉の色気と、想いをぶつけるような熱いキスに、真里亜の身体から力が抜けていく。

 文哉はますます強く真里亜を抱きしめ、自分の胸に真里亜を掻き抱いた。

「ちょ、あの、副社長室で、こんな」

 ようやく真里亜が文哉の胸を押し返し、顔を赤くして慌てて離れる。

「仕方ないだろ? 真里亜が俺をこんなに焦らしたんだから」
「そ、そんな。私はただ仕事を……」

 言葉の途中で、文哉はまた真里亜を抱きしめた。

「真里亜、今夜はここに泊まっていく?」

 耳元でささやかれた真里亜は、もう耳まで真っ赤になり、必死で首を横に振る。

「あの、住谷さんをお待たせしているし、もう行きます」

 スルリと文哉の腕から逃れ、真里亜はドアの前で文哉を振り返った。

「じゃあ、あの……。また明日ね、文哉さん」

 恥ずかしそうにそう言うと、急いでドアから出て行く。

 パタンとドアが閉まっても、文哉はしばらくニヤニヤと頬がゆるんだままだった。
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