虹へ向かって飛ぼう

Prologue


『高く飛べば、あの虹に届くと思っていた。私はもう、この世に未練などないのだ』


 寝苦しさに目を覚ました。

 体を起こし見つめた先は、大きな窓から望む絶景。

 薄暗い雲に覆われながらも真っ赤な朝焼けが横一直線に伸びていた。その美しさに一瞬にして目が覚めた。

 見慣れたいつもの街並みが眼下に広がり、夜景の美しさを残す赤いイルミネーションが今も輝いていた。

 ふと違和感を覚えゆっくり振り向くと、隣に知らない男性が眠っていた。

「!」

 あまりの驚きに、吐くはずの息を大きく吸い込みむせかえる。

「だ……だれ?」

 小さく言った言葉に、男性が起きるはずはなかった。

 慌ててベッドから転げるように出ると、着ていたはずの制服はなく、体を覆っていたすべてのものがベッドの下に点々と落ちていた。

「……」

 頭が回らない。
 なんで自分が裸なのか。知らない男が隣で、裸で寝ているのか。

 恐る恐る、その男性の顔を覗き込んだ。乱れた前髪、肌は白くとても美しい顔をしている。知り合いではないことは一目瞭然で。

『まさか』という思いをよぎらせながら、脱ぎ捨てられた服を急いで着ると、その場から逃げ出すように扉を開けた。

「……」

 振り向き見た大きな窓からの美しい朝焼けが、部屋を東雲色(しののめいろ)に染めていた。

 ここは何階に位置するのか、こんなに美しい景色が観えるホテルに泊まっているって、あの人は何者なのだろう。

 一瞬冷静になりながらも、私は急いでその部屋を飛び出した。


 ホテルのロビーには、高い天井まで届いてしまいそうな大きなツリーが飾られ、かすかにクリスマスソングが流れていた。

 昨日はクリスマスイブだった。

 目に映る真っ白に飾られたクリスマスツリーを見て、昨日のことを思い出した。

 最悪なクリスマス。

 少し湿った制服の冷たさが、昨日の出来事が夢ではなかったと思い出させる。

 私はコートを羽織ると深くフードを被り、そのホテルを後にした。



『高く飛べば、あの虹まで届くと思っていたのに……』


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