岩泉誠太郎の恋

条件が良過ぎる仕事

「はじめまして、安田椿です。本日はお時間を取って頂き、ありがとうございます」

「はじめまして、川口です。俺は人事の人間ではないし、今日はそんなに緊張しないで大丈夫だよ」

川口宗次郎という堅苦しい名前からもっと年上であると想像していたけれど、待ち合わせ場所に現れた彼は、二十代半ばと思われるなかなかイケメンなお兄さんだった。

近くのカフェに入り、早速業務内容の説明をしてもらう。

「今回先生に紹介をお願いしたのは、事務方の仕事をしてくれる人でね。安田さんが優秀な人だっていうのは先生から聞いてるけど、もし君の希望が世界を飛び回るような仕事なら、それを叶えるのはすぐには無理なんだ、、」

「今回お話を伺ってみようと思った理由は、アラビア語のスキルを活かせる職場に興味があったからです。将来的にアラビア語がスキルアップして活躍の場が広がるんだとしたら、とても魅力的だと感じます」

「そう言ってもらえると凄くありがたいな」

イケメンな川口さんが爽やかな笑顔を炸裂させ、ちょっとドキッとしてしまう。

「うちの会社でもアラビア語が必要な部署はわりと限られてるんだけど、その部署でも不自由なく読み書きできる人はほとんどいなくて。最近は翻訳ツールが増えたからだいぶ便利になったけど細かい所はカバーしきれないし、現地から電話がくることもあるから、どうしてもアラビア語を習得してる人材が必要なんだ」

「正直なところ、会話に関しては日常会話も怪しいレベルなんですが、それでも大丈夫なんでしょうか?」

「それは問題ないよ。基本的にやってもらいたいのは書類の翻訳作業だから。もちろん専門用語の勉強をしてもらわないと仕事にはならないけど、現時点で日常会話の聞き取りが多少でもできるなら、経験を積めばいずれ問題なく使えるようになるし、それに応じて仕事の幅も増えると思う」

「ちなみに、専門用語の使用頻度はかなり高いんですか?」

「俺も安田さんと同じ授業を受けてたのは知ってるよね?俺は慣れるまで数ヶ月はかかったかな?アラビア語が必要な時はみんな調べながら作業してるし、俺もいまだに辞書が手放せないけど、ちゃんと仕事になってるから心配しないで大丈夫だよ。それに電話に関しては取り次ぎ程度だから、英語が使えるなら全く困らないはずだよ」

一時間程かけて私の質問に丁寧に答えてくれた後、川口さんが突然身を乗り出して声を落とした。

「君のアラビア語のスキルは正直すぐにでも欲しいくらいでね。実は、もし安田さんが入社を決めてくれるなら、うちの部署に配属してもらえるよう、既に人事と話をつけてきてるんだ」

「えっと、、ちょっと話がよくわからないんですが、、」

「もちろん安田さんは新卒者だし、これから段階を踏んだ入社試験を受けてもらわないといけないんだけど、ここだけの話、役員面接以外は形式的なものだと思ってもらって構わない」

「え?」

「君さえうんと言ってくれれば内定はほぼ確定してるってことだよ。できるなら長期休みにインターンとして働いてもらって、早く仕事に慣れてもらいたいんだ」

何これ?どういうこと?聞いてたのとだいぶ話が違わない?私、騙されてる?
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