岩泉誠太郎の恋

俺は彼女が好きなんだ

そのまま彼女との距離は縮むことなく、3年の夏が終わろうとしていた。

アラビア語の授業で彼女を盗み見ることだけが俺と彼女の接点で、あとは啓介から彼女の話を聞くだけ。

もうすぐ、彼女との唯一の接点すら消えてなくなってしまう。

俺は無駄な労力を減らす為にこれまで色々なことを諦めてきた。周囲から求められることを成す為には、無駄を切り捨てることが必須だったから。選択が必要な時、より重要な方を迷わず手に取ることで容赦なく無駄を省いてきた。

俺にとって重要なことは、彼女が俺を狙う子達の標的にならないことだった。その為に随分我慢を強いられた。だが、見ることすら叶わなくなるのは我慢できない。

俺は彼女のことが諦められないのだ。今の俺にとって、それが最重要事項だった。ならば方向転換が必要になるだろう。

「彼女、俺のこと、まだ好きだと思うか?」

「え?何?椿ちゃんのこと?うーん、正直、判断が難しい。けど、多分、好きだと思う。他に誰かいそうな感じも全くないし。ほら、俺も布教活動、地味に続けてるし。でもどうして?」

「俺は彼女が好きなんだ。絶対諦められない」

「う、うん。それは知ってたけど。遂に認めるに至って、その報告ってことかな?」

「だから、次に繋げる努力をしようと思う」

「、、次?」

「俺は社会人になった彼女を手に入れる」

「はい?」

「彼女を手に入れ、尚且つ彼女を外敵から守るとしたら、一番効率的なのは結婚だ」

「結婚!?」

「現状でそれが叶わないのはさすがの俺でもわかる。行動を制限できない大学では彼女を守りきれないから、手も足も出せない。でも社会人になれば、今よりはやりやすくなるだろ?」

「それって、どういうこと、、?」

三角(みすみ)商事に入社してもらえばいい」

「いや、それは無理じゃない?椿ちゃんが誠太郎と同じ会社を選ぶとは思えないよ」

「、、子会社ならどう思う?」

「うーーーん。確実とは言えないけど、ギリいけるかも?」

「子会社か、、三角エネルギーならいけるか?あそこなら宗次郎さんもいるし、規模的にもかえって都合がいいかもしれない」

「でも誠太郎は三角商事に入るのが既定路線だろ?どうするつもり?」

「それはこれから父さんと交渉してくる。どっちにしても将来に関わることだ。父さんとの話し合いからは逃げようがない」
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