岩泉誠太郎の恋

彼女との幸せな時間

出張には彼女の他に需給本部の執行役員と小飼の若手が同行しており、日中二人きりになる機会は当然ない。夜は夜で現地スタッフとの懇親会や接待等もあり、彼女とゆっくり話す時間を持てないまま、日程の半分が終わろうとしていた。

「小野寺さん、少しご相談したいことがありまして、、」

背に腹はかえられない。俺は役員の小野寺さんに事情を話し、協力をお願いした。

「へー誠太郎君て意外とピュアなんだねー。よし、わかった。おじさんに任せなさい。夜は安田さんと二人になれるようにしてあげよう」

ニヤニヤが止まらない小野寺さんに慌てて口止めをしたが、大人な彼が不用意に彼女のことを広めるような真似はしないだろう。

早速その日の夜、小野寺さんは部下を連れて繁華街へと消えていった。

「安田さん、せっかくだから俺達も何か美味しいものでも食べにいこう」

そう言って彼女を誘い出し、予約しておいたシーフードが美味しいと評判のレストランへと向かう。個室に用意されたテーブルにつくと、彼女はミネラルウォーターを口にした。

「覚悟はしてましたが想像以上に暑くて驚きました。これでビールも飲めないなんて、まるで罰ゲームですね」

食事をしながら仕事の話やクウェートの話を嬉しそうにする彼女がかわいくて、俺はどうにかなってしまいそうだった。

正面から彼女を見つめることが許されるこの瞬間が、永遠に続けばいいと思わずにはいられない。

「啓介からずっと安田さんの話を聞いていたから、まるで古い友人と話してるような気分になるな」

「啓介?あ、坂井君のことですか?実は私も彼からたくさん話を聞いてるので、副社長のことはかなり詳しいかもしれません」

「そうなんだ。だったら二人きりの時くらい敬語で話すのはやめない?俺達は大学からの知り合いなんだし」

「え?あ、いや、でも、、」

彼女は急に照れ始め、下を向いてしまった。仕事の関係だと割りきっていたからこそ、俺と普通に話せていたのだろうか。

なんてかわいいんだ!

「安田さん。そんなに俺のことに詳しいなら、俺に好きな人がいるのは知ってる?」

「え?あ、はい。噂でも聞いてるし、坂井君からもそう聞きました」

「実はその好きな人っていうのは、安田さんのことなんだ」

「は?」

彼女は口を開けたまましばらく動かなくなった。彼女はそんな姿までかわいい。
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