岩泉誠太郎の恋

恋人との寂しい関係

坂井君とは授業で会う度挨拶する仲になり、その後もノートのコピーをお願いされ、彼が勉強で行き詰まった時には、ちょっとしたアドバイスもするようになっていた。

「椿ちゃん、今度時間ある時でいいから、わかりづらいとこまとめて教えてくれない?」

それをきっかけに坂井君と教室外でも顔を合わせるようになった。図書室にある自習スペースで待ち合わせ何度か一緒に勉強している内にいつしか気安く話せるようになっていた。

「坂井君は岩泉君といつも一緒にいるし仲良しなんだよね?私なんかより、岩泉君に教えてもらえばいいのに、、」

「もしかして、こうして俺と勉強するの、迷惑だった?」

坂井君が少し演技がかった感じでショックを受けた顔をするから、私は慌てて彼の言葉を否定した。

「迷惑だなんて、それは全然ないよ!ただ、岩泉君は天才だって有名だし、なんでかなって前から思ってたの」

慌てた様子の私を面白がるように微笑んで、坂井君は私の疑問に答えてくれた。

「誠太郎は本当の天才だから、人にものを教えるのには向いてないんだよ。俺が努力しないと理解できない部分をあいつはなんとなくでわかってしまうから、うまく説明ができないんだと思う。もちろん、あいつはあいつで努力してるけど、俺らの努力とはちょっと次元が違うんだよね」

「本当の天才か、、そんな人といつも一緒にいる坂井君は大変だね」

「本当それ。嫌々そばにいるわけじゃないけど楽じゃないのは確かだよ。でも、誠太郎がいなければここまでの努力は俺もできなかっただろうし、それなりに報われてるのかも」

「それなりって、、楽じゃない努力を続けられる坂井君も、絶対凄いよ」

「そんなこと言ってくれるの、椿ちゃんだけだよー。誠太郎の隣にいると俺なんか霞んじゃって、存在感ゼロだから!」

思い返せば、岩泉君に一目惚れしていつも遠くから彼らを見つめていたはずの私の記憶の中に、坂井君の印象はあまり残っていないかもしれない。後ろめたさで口ごもる。

「そ、そんなことないよ。坂井君だってかっこいいし、実際もてるでしょ?」

「よく言うよー。椿ちゃん、いつも目をハートにして誠太郎のこと眺めてるじゃん。俺のことなんて目に入ってないのバレバレだから」

バレバレって、、まさか岩泉君にも!?顔面蒼白になった私を気遣ってか、坂井君は呆れたような口調ながらも優しく言葉を続ける。

「まったく、なんであいつばっかりもてるんだか。多分誠太郎は気づいてないから気にしないで大丈夫だよ」
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