岩泉誠太郎の恋
岩泉君とは授業で多少の接点はあるものの、意識して距離を置くようにしていた。意識してしまうあたりに問題がある気もするが、美し過ぎる彼がいけないのだ。私にはどうしようもない。

「今日授業で誠太郎と話してる時の椿ちゃん、顔真っ赤だったよー」

「え!?嘘でしょ!?」

坂井君が意地悪な顔をしてる。良かった、冗談らしい。

「でもわかりやすく照れてたよねー。美人は三日で飽きるっていうのに、まだ誠太郎の顔に慣れないの?」

「わかってるよー。あんな態度は岩泉君に失礼だって自分でも思うけど、どうしても恥ずかしくって、、」

「俺とは普通に話せるのにねー。椿ちゃんて意外と失礼だよねー」

「いや、坂井君だって最初は緊張したよ?でも坂井君は雰囲気が柔らかいし、慣れもあるし」

「慣れかー。それならこの勉強会に誠太郎を連れてくればいいのかな?」

「いやいや、別に私が岩泉君の顔に慣れなくても、大して問題ないじゃない?無理に機会を作らなくても、本当に必要だったら放っておいても慣れるもんだよ。慣れてないってことは、必要ないってことだよ」

「なんか、必死だな」

そう言ってにやつく彼は、私のことをからかって面白がっているのだろう。

坂井君との勉強会は変わらず続いていたが、彼が頻繁に岩泉君の話をしてくることに、私は少々うんざりしていた。

彼は私との共通の話題だといわんばかりに、何かと岩泉君のことを話してきた。彼の子供の頃の話や普段の様子を半ば無理矢理聞かされるのだ。

ほとんど接点がなかったからこそ、それまでは憧れのような恋心でしかなかった岩泉君への想いが、彼の人となりを知る度、より深くなってしまうのを感じてしまう。

不毛な恋が深みにはまるのを防ぎたくて岩泉君との距離を保っているのだ。なのにこれでは意味がない。

岩泉君は坂井君の親友ともいえる存在だ。確かに私と彼の共通の知人は岩泉君しかいないのだから、この状況は仕方がないとも言える。

だからといって、勉強会を断ることも岩泉君の話題を避けることもできない私に、なす術はなかった。

「坂井君て本当岩泉君のことが好きだよねー。坂井君が女の子だったら良かったのにね。そしたら岩泉君は坂井君に恋をして幸せになっていたかも、、」

「ちょっと、変な想像するのやめてくんない?それに俺が女なら、あいつは俺を好きにはならなかったと思うよ?」

「えー。何?その男女差別。時代にそぐわないよ?」

「誠太郎は色々あり過ぎて、色恋沙汰に関しては相当拗らせてるから。一筋縄ではいかないんだよ」

「色々、、」

「そう、色々。色々部分を語るには一晩はかかるけど、家に帰らなくてもいいなら聞かせてあげるよ?」

坂井君が珍しく色気を出してきた。こう見えて私は箱入り娘なのだ。門限を守るため、このお誘いは丁重にお断りさせて頂いた。
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