本部長は慇懃無礼
　小池はあの日を境に京子に対して優しくなった。初めの言動は一体何だったのだろうかと京子は毎日考えていた。


「山田さん、明日の出張の件なんだけど……」


　京子は小池の優しさに対する疑問を考えるあまりに出張の存在を忘れていた。


「もう明日ですか？！」


「忘れてるか心配だったけど、まさか本当に忘れていたとはな」


「すいません。最近ボーっとしてて」


「まあいい。明日までにこのリストをしっかり覚えてきてくれ」


　小池は京子に一枚の紙を手渡した。紙には人の名前や役職、趣味などが書かれていた。


「これを一日で覚えるんですか？」


「もっと早く渡す予定だったのだが、仕事が詰まっててな。ごめん」


「分かりました。最善を尽くします」


　自分のデスクに戻り、リストに目を通すが内容が頭に入ってこない。小池の素直に謝る姿がぐるぐるとよぎる。日に日にまともになっていく小池に戸惑う京子だった。
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