ドＳな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい～子づくりは溺愛のあとで～

　今も眉間にシワを寄せる俺を見て、波多野は苦笑している。

「やっぱり機嫌が悪い理由はそれだったんですね。社長をフォローする俺の身にもなってくださいよ」
「今日に限ったことじゃないだろ」
「もう少し悪びれてくれません？」

　彼のツッコミはもっともだ。俺が厳しく愛想がないせいで萎縮してしまう社員を、陽キャな波多野が和ませてくれているのだから。

　彼はフィレ肉のステーキを頬張り、美味しそうにもぐもぐと食べながら話す。

「依都さんにとっては従兄なんだし、気を遣わない間柄なんだからもうしょうがないじゃないですか。社長が嫉妬するのも致し方ないとは思うけど」
「……だよな」
「はい。それに、依都さんの気持ちもわからなくないですよ。誰だって、好きな人には自分のマイナスポイントは見せたくないと思うでしょう。信頼しているかどうかはまた別問題で」

　それは俺も理解できるので、「わかってる」と返した。実際、俺だって酒に弱いところは見せたくなかったしな。

「依都に怒っているわけじゃないんだ、本当に。むしろ、彼女がそんなに悩んでいたのに気づけなかった自分に悔しくなってる」
「まあ、それは難しいですよ。エスパーじゃないんだから」

　波多野の言う通り、人の心の中を読み取るのは至難の業だろう。しかし、思い起こせば彼女から感じるサインはあったのだ。